このダイアリーでも何度も書いていますが、海外文学は売れない、と世間では言われています。全く売れていないのかと問われると、海外文学を刊行している出版社の人間としては「そんなことはありません、売れてるものだってありますよ」と反論したくなります。ただ、この反論のセリフ自体が既に「あまり売れているわけではないみたい」という感じがにじみ出てしまっているかもしれません。
ただ、それを言ったら、日本文学(古典文学とか近代文学ではなく現代作家の作品という意味)だって、村上春樹や東野圭吾など、売れるのは一握りの作家の作品ばかり、あとは又吉とか、メディアで話題になったものくらい。ほとんどの作品は初版で終わっているはずです。コミックだって、やはり売れているのは一部の作品です。作品それぞれに熱狂的なファンが付いているので、ある程度は売れるのでしょうが、それを越えて広がっているのかと言えば、それこそワンピースとか進撃の巨人とか、これまた一握りの作品だけではないでしょうか?
もちろん、同じ初版で終わっていると言っても、海外文学と現代作家やコミックとでは初版の部数が桁違いですから、冊数にしろ金額にしろ、やはり「海外文学は売れない」というセリフは正しいと言わざるをえません。
だから、書店では売れる売り場を作ろうとしたら、売れないジャンルを削るわけで、専門書のようにジャンルごと削られてしまうときもありますが、文芸書のコーナーで言えば、海外文学というのはいつだってリストラの最有力候補です。実際削られています。書店店頭から海外文学のコーナーは加速度的に減っています。辛うじて気を吐いているのはミステリーとファンタジーでしょうか。
しかし、売れないから書店店頭での棚こそ減っているものの、海外文学ファンが減っているのかと言われると、あたしはそうは感じません。むしろ海外文学を読みたいという熱い読者は爆発的に増えてはいないけれど、微増はしているのではないかと思います。
その理由は何故かと言われると、やはり面白い作品が翻訳紹介されているからではないでしょうか。お金と時間に限りがあるので、あたしもすべてを読めるわけではないですし、情報として知っているわけでもありません。でも時間とお金があったら読みたいと思わせる海外文学作品が両手両足では足りないくらいあります。恐らく、あたしみたいなガイブンファンは多いのではないでしょうか?
その結果どうなるか。多くの書店が海外文学の棚を縮小する中、しっかりと売り場を維持している書店、いわゆる「ガイブンに強い店」にファンが集中するのです。そういう店では「売れないガイブン」という言葉を尻目に、入荷初日から売れます。数日で二桁の売り上げ部数になるお店もあります。結局、「ここへ来ればガイブンが揃っている」ということでお客さんが集中するのでしょう。
そんなお店の一つが、紀伊國屋書店新宿本店です。まあ、ガイブンに限らず、ほとんどのジャンルで日本一の本屋だとは思いますが……(汗)
既にお伝えしていますが、いま同店では《エクス・リブリス》のフェアを開催中です。《エクス・リブリス》だけでなく、《エクス・リブリス・クラシックス》も含めた、在庫のあるものすべてが並んでいる大がかりなフェアです。
実は、新宿本店では数年前に、新潮社のクレストブックスとのコラボフェアをやらせてもらっています。お店としても「クレストブックスだけ、エクス・リブリスだけではつまらない」と考えての同時開催だったのですが、こういう取り組みもありだと思いますし、ガイブンファンには嬉しいところです。
白水社としては、大手の新潮社、クレストブックスと一緒にやらせていただくなんて畏れ多い、という気持ちも多分にあるのですが、両シリーズのコンセプトが微妙に異なるので、やはり読者には楽しいフェアになったのではないかと思います。
で、両シリーズと言いましたが、海外文学で、まもなく、また一つ、新しいシリーズが始まるようです。国書刊行会から《ドーキー・アーカイヴ》全10巻が刊行スタートです。店頭に小冊子が置いてあったのでもらってきました。
なかなか面白そうなシリーズです。どれも読みたくなります。となると、来年あたり、国書のシリーズのラインナップが揃ってきたら、クレストブックス、エクス・リブリスと三つのシリーズで合同フェアができますかね?
ちなみに、新潮クレストブックスはサイトの説明では、
海外の自伝、小説、エッセイなどジャンルを問わず、もっとも優れた豊かな作品を紹介するシリーズ
とあります。白水社のエクス・リブリスは、
独創的な世界の文学を厳選して贈るシリーズ
というコンセプトです。そして国書刊行会のドーキー・アーカイヴは
知られざる傑作、埋もれた異色作を、幻想・奇想・怪奇・ホラー・SF・ミステリ・自伝・エンターテインメント等ジャンル問わず、年代問わず本邦初訳作品を中心に紹介する、新海外文学シリーズ
なんだそうです。