風化させないと思いつつ……

うっかりしていましたが、昨日はあの地下鉄サリン事件の日。1995年のことですから、あれから21年になるのですね。確か阪神・淡路大震災と同じ年だったはず。

あたし自身は、その日は『白水社中国語辞典』の校正のため、今は亡き伊地智善継先生のご自宅へ向かう出張でした。場所は大阪の枚方市でしたので、事件が報道されるころには新幹線の中、社内のテロップニュースで東京の地下鉄車内で異臭騒ぎ、というのを見ていた覚えがあります。異臭騒ぎ、その程度の認識しか持たずに伊地智先生のお宅へ到着したのが昼ころでした。

玄関を開けると、まだご健在だった先生の奥様が「あなた、大丈夫だったの?」と血相を変えた様子。「何かありましたか?」という、事情を飲み込めないあたしに「東京が大変なことになっている」と告げると、しばらく三人で、先生のお宅のリビングで、テレビから流れるサリン事件のニュースを魅入ったものでした。まさか、新幹線の中で美大衆騒ぎがこんな大きな事件になっているとは……

いま考えると、東京の地下鉄のうち数路線が狙われたわけですが、あたしの勤務先でも通勤で使っている社員が複数名いる路線でした。幸いにも、あたしの勤務先の同僚で被害に遭った者はいませんでしたが、ちょっと出勤時間がずれていたら、そしてあの車両に乗り合わせていたら、間違いなく被害に遭っていたことでしょう。本当に不幸中の幸いだと思います。

そして、そんな路線。20年以上だった今では、何事もなかったよに日々乗っています。あたしは通勤では地下鉄は使いませんが、書店営業では毎日のように事件のあった路線に乗っています。ここ数年は、「社内で不審物を見かけましたら……」の車内、構内アナウンスは目立たなくなりましたが、事件以降、地下鉄や電車に乗れなくなった人も大勢いると聞きます。

後にも先にも、そして世界を見回しても、いわゆるテロ組織でも犯罪組織でもない(と思われていた)団体が、拳銃や火炎瓶などではなく、神経ガスを使った無差別大量殺人は、この地下鉄サリン事件以外は起きていませんよね? アルカイダやISがテロを起こしても、多くは拳銃や爆弾といった、ある意味古典的な武器ばかり。こういった毒ガス、それも一見したところ、ペットボトルの水がまかれただけのような殺人兵器を使った犯罪。怖いものです。二度と起こされないために、その後日本の警察はどんな対策を立てているのでしょうか?