柴田元幸ゼミ~スティーヴン・ミルハウザー第2回~

昨晩は代官山蔦屋にて、柴田元幸さんのトークイベントがありました。

かつて、もう数年前ですが、数回こちらのイベントに来たことはありますが、その当時は一階の売り場の中を少し片づけて会場を設営していたのですが、最近はこのように2階のスペースを使ってやるのですね。

さて、柴田さんのトークです。

少し前にブックファースト新宿店で、小林久美子さんとのトークイベントがまるで柴田さんのゼミに参加しているようだと書きましたが(こちらの記事)、今回もミルハウザーで、なおかつ柴田さんお一人ですので、ますますミルハウザーをテーマとした柴田ゼミに参加しているような気分になりました。

今回の作品『ある夢想者の肖像』については、前回に引き続き「どこから読んでも濃密な作品世界を味わえる」とおっしゃっていたのが印象的でした。それこそ七十数章あるので、一日一章読んでいけば二か月ちょっと楽しめるとも。

昨夜のトークで印象に残った柴田さんのお話をいくつか。

まずは同書の長さについてです。最近は短編小説家として親しまれているミルハウザーですが、もしこの作品(原書)が最近書かれたものだとしたら、いかなミルハウザーといえども出版できなかった(出版社が出版してくれなかった)のではないか、とのこと。そういう意味では、まだ出版事情がよかったころに出せて本当によかったと。

ただ、それを言うなら、アメリカですらそんな事情の翻訳を、よくもまあ、あたしの勤務先は日本で出したなあ、とも思います(爆)。ただ、この長さ、柴田さんは「サクサク読める作品が嫌い」だそうで、そんなところも柴田さん好みの作品なのだと思います。

ちなみに、「いかなミルハウザーといえども」と書きましたが、柴田さん曰く「ピューリッツァー賞など取るべきではなかった」という発言には笑ってしまいました。アメリカの一般誌にコンスタントに短編が載る、いまや押しも押されぬ大御所と言ってもよいミルハウザー。受賞で更に箔が付くかと思いきや、決してそうでもないらしいです。

柴田さんのトークイベントでは恒例の朗読。今回は「本となって出版されるのはだいぶ先になりそう」という、ミルハウザーの短編。ファッションに関する奇妙奇天烈な作品でした。

ところで柴田さんは『ある夢想者の肖像』を理系の方に薦めたいとおっしゃっていました。質疑応答である人がその理由を尋ねたところ、設定は非常にヘンだけど、語り口は理路整然としていて、決して読者の空想に委ねることはせず、数学の証明を見ているような作品だから、と答えていらっしゃいました。

まだ4割くらいしか読み進んでいないのですが、なんとなくこの感じわかります。

ついでに、ピューリッツァー賞を受賞したミルハウザーの作品とは『マーティン・ドレスラーの夢』のことです。