ジャスミンティーを飲みながら

今宵は東京堂書店神保町本店で行なわれた小倉孝誠さんと堀江敏幸さんのトークイベントに行って来ました。お題は、このほど完結した、マルグリット・ユルスナールの三部作「世界の迷路」です。

  

追悼のしおり』『北の古文書』『なにが? 永遠が』のうち、第二巻「北の古文書」を小倉さん、第三巻「なにが? 永遠が」を堀江さんが訳されているということで、お二人のユルスナールとの出会い、翻訳の作業について、この作品について、時間がまるっきり足りないほどの自由なトークでした。

会場はほぼ満席でしたので、恐らくいろいろな方が今宵のトークについてブログで、あるいはTwitterやFacebookに投稿されると思いますので、あたしもあたしなりに面白いと感じたことを思い出せるままに書きたいと思います。あたしは仏文科出身でもなければ、仏文に造詣が深いわけでもなく、それにフランス文学をよく読んでいるというわけでもない三重苦ですから、もしかするとまるで見当違いのことを書いてしまうかもしれませんが、門外漢は門外漢なりにこう感じた、という風に受け取っていただければ幸いです。

まず、小倉さんと堀江さんの年齢差から来る、ユルスナールとの出会いの差です。ユルスナールが一躍時の人となったのは1980年にアカデミー・フランセーズの、女性としては初の会員に選ばれたことだそうです。そのころ、小倉さんは初めてフランスに留学した大学院生。フランス語の授業の合間に街へ行き、時の人ユルスナールの本を買っては読みあさったそうです。ちょうどフランス語研修の教材にいち早くユルスナールが使われていたそうで、その文章に衝撃を受けたとのこと。一方堀江さんはそのころはまだ高校生。将来、仏文に進むなどとはまるっきり思ってもいなかった時代です。数年後、大学に進学してからユルスナールを翻訳で読み始めたそうですが、そのころはユルスナールの最晩年、当時はやっていたヌーヴォーロマンにかぶれつつも、ユルスナールも気になっていたそうです。

さて本作ですが、簡単に言ってしまえばユルスナールの自伝です。ただし、第一巻で母方の家系を辿り、第二巻では父方の家系を辿り、そして第三巻でようやくユルスナール自身の人生を描いたものです。が、第三巻は彼女の死により未完に終わっていて、その体調や周囲の状況のせいなのか、第三巻は第一巻、第二巻に比べると文体などもかなり異なるようです。そして、第一巻、第二巻が自分にとっては遠い存在であるために自由に創作する感じで書けているのに対し、自分の見知っている、あまりにも近すぎる人びとを描く第三巻は、非常に書きづらそうな印象を受けるとのことでした。

また小倉さん曰く、第一巻、第二巻は時代として19世紀を扱っているので、19世紀を彩る綺羅星のごときフランスの文学者たち、そして彼らの作品世界を彷彿とさせるものだそうです。挙がった名前としてはスタンダール、バルザック、ボードレールなどです。これらの作家の作品も読んでいないあたしにはとても歯がゆいものがありましたが、逆にこれから読む楽しみが生まれたとも言えます。

 

 

ユルスナールの作品では『東方綺譚』『とどめの一撃』『黒の過程』、そしてこれは絶対に外せない『ハドリアヌス帝の回想』なども何度もトーク中に名前が出ました。どれも未読なので、ますます楽しみが増えました! それにしても、約2時間弱のトークではまるで時間が足りません。やはり30日の渋谷の丸善&ジュンク堂書店の堀江さんのトークにも行かないとなりませんね。