Remember you must die.

死を忘れるな』読了。

話の発端は、とある老婦人にかかってきた一本の電話。受話器を取ると「死ぬ運命を忘れるな」と言うだけで切れてしまう。不安に駆られた夫人は兄に相談し……

という感じで、兄の妻、夫人の友達などなど70歳以上、中には90歳近い人まで、多くの人が登場します。そのうちの何人かには、この嫌がらせのような電話がかかってきます。彼らは定年退職した元警察官に相談しますが、老人の思い違い、妄想だと思われてしまう始末。

ストーリーはこの電話の犯人は誰かということを縦糸に、彼ら老人たちの人生の末期をそれぞれに描くことを横糸に進行していきます。物忘れがひどくなったり、考え方が意固地になったり、体が思うように動かなかったり、老人たちはそれぞれに悩みを抱えつつも、愉しく平穏に暮らしています。ただ、自分が死んだらどうなるのか、なまじ財産を持っていると、それを誰に譲るかで悩まなければなりません。そんなところ、実に生臭い話も出てきます。

恬淡として、飄々と人生の最晩年を生きていると思いがちなお年寄りたちが、実に生き生きと、そしてまだまだギラギラとした欲望を抱えつつ生きているということが非常によく描かれた作品です。人生を全うするとはどういうことか、晩節を汚さないとはどういうことか、改めて考えさせられます。

ところで、結局、最後まで読んでも、いたずら電話の犯人が捕まるわけではなく、犯人が誰だったかも明らかになっていないと思うのですが、やはり老人たちの集団妄想だったのでしょうか?