レーニンのキス

合間に他の本を読んだりしていたのでちょっと時間がかかってしまいましたけど、ようやく『愉楽』読了しました。が、最後の方、後半半分くらいは一気に読んでしまうほどのスピードでした(汗)。

  

身体障害者ばかりを集めた雑伎、否、絶技団を組織して、中国全土を公演してお金を稼ぐ、というプロットだけを聞くと、奇想天外なドタバタ喜劇を想像してしまいますが、読後感を問われると、やはりある種の喜劇なのかな、とも感じます。閻連科は既に『丁庄の夢』『人民に奉仕する』を読んでいますが、相変わらず批判精神にあふれた、毒のある作品です。

さて本作のあらすじは上にちょこっと書きましたが、なんでそんな絶技団を組織したかというと、片田舎の県長がロシアへ行ってレーニンの遺体を買い取り、自分の県に記念堂を作ってそこに遺体を安置する、そうすれば世界中から観光客が押し寄せて県は濡れ手に粟の収入を手にし、県民は汗水流して働くことなく、学校も病院も無料になるような生活ができる、というとんでもない計画を立てたことに始まります。その県の外れも外れ、ほとんど地図にも載っていないような山の奥に障害者ばかりが肩寄せ合ってひっそりと暮らす村落があり、そこの人たちが障害者とは思えない身体能力を持っていることを県長が発見し、これは商売になると思いついたのがそもそもの始まりでした。

これが大当たりして、どこへ行っても絶技団の公演は超満員。あまりの多さの観客を捌くためにチケットの値段を上げたにもかかわらず、それでも押すな押すなの連日大盛況。絶技団に参加した障害者たちにも、一生安楽に暮らせるほどの大金が手に入りました。もちろん記念堂も落成となり、県長の命を受けた代表がロシアへ遺体購入の交渉に向かいます。

さて、そこから話は急転直下。ネタバレになるので書きませんが、中国における障害者に対する偏見、差別意識の根強さ、したたかに立ち回る人間の狡賢さ、いくらひどい目に遭わされても目を覚まさない庶民たち、そんな中国社会の負の面がこれでもかというように執拗に描かれます。

にもかかわらず、悲劇的な暗さがあるかというと、確かに感じられなくはないものの、カラッとした明るさも感じられます。どんな絶望的な状況におかれても、前向きとは言えませんが、暗くなるわけでもない庶民のたくましさ、打たれ強さ、そんなものを感じます。この強さが中国の強さなんだろうな、と思います。

2015年5月24日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー