「楽しい」という言葉の意味

二子玉川の蔦屋家電に行ってきました。

「どんな感じだった?」と聞かれれば、出版社の営業的に答えるなら「意外と本が多かった」となります。「蔦屋家電」という名称から、家電や生活雑貨が中心で、書籍は申し訳程度に並んでいるのかな、と予想していたのですが、入ってみれば「ああ、本屋だ」と思えるほどの書籍の数です。

「じゃあ、どんな本屋なの?」と聞かれると、ちょっと答えにくいです。ですので、思いつくままに、たぶんまとまりもなく書いていくとこんな感じです。

まずはブックカフェのようなたたずまいがあります。ただし、1階と2階とで1000坪以上はありますので広々としていて、「本が読める喫茶店」というイメージのこじんまりとしたものとはまるで異なります。雰囲気としてシティ・ホテルのロビーやラウンジに書棚を設けて本を並べている感じでしょうか? いや、シティ・ホテルと言うより、観葉植物なども配置されているのでリゾートホテルと呼んだ方がよいかも知れません。そんな感じです。

家電とあるから電気屋なのか、という感じでもなく、もう少しオシャレな、雑貨とまで言ってしまうとちょっと違いますが、それでもオシャレな雑貨屋的な感じで、いわゆるビックカメラやヨドバシカメラ、ましてやヤマダ電機といった家電量販店的な雰囲気は欠片もありません。書籍と家電の融合による新しいライフスタイルの提案、といったところが狙いなのでしょう。

「では、本屋としてはどうなの?」と言われると、たぶん「昨日の書評に載っていた本」とか、「新聞の下の方(広告のこと)に載っていた本」を探しに来た、というお客には、きっと使いづらい本屋だと思います。たぶん目的の本を自力で見つけることは不可能ではないでしょうか?

ここは、そうでなく、特に決まった本を買いに来るのではなく、ふらっと立ち寄って、特にこれという目的もなく棚を眺め、ふと目についた本に手を伸ばす。お茶を買って飲みながら、椅子に座ってその本のページをめくる、気に入ったから買って帰る。そんな感じだと思います。もちろん本と家電との関連性もそれなりに持たせてあって、シームレスに誘導するようになっているわけです。

と、ここまで書いてきて、蔦屋は家電を標榜しているわけですが、そうではない書店、つまりお店の担当者が独自の好みで書籍を仕入れ、並べているような書店はこの数年、いや十数年でしょうが、非常に増えてきていると感じます。その嚆矢と言っていいのかわかりませんが、京都の恵文社などはかなり早い例ではないでしょうか? 京都ではマルイにあるFUTABA+もこの種の書店に数えられると思います。東京ではマルノウチリーディングスタイルORION PAPYRUSなどを挙げることができると思います。そして、つい先日オープンした新宿の小田急百貨店の中のSTORY STORYもそういった提案型の、書籍や雑貨混在の本屋です。

さてさて、この手の本屋さん、本当に流行っていますが、実際のところ評判とかはどうなのでしょう? 特に何か耳に入ってくるわけではありませんが、評判云々はおくとして、これまでのような本屋では先行き厳しいという現状認識があるのではないでしょうか? 本屋プラスアルファ、ということです。

これまでの本屋と言えば、新刊を仕入れオーソドックスな棚の配置で並べる、というスタイルで、本屋の規模こそ違え、だいたい目当ての本がどこにあるかは店内マップなどを見れば想像できるような書店です。しかし、ここに挙げたような本屋では、「人文」とか「文芸」とか「学参」とか、そういったこれまで本屋で慣れ親しんできた分類やジャンルを一度取り払って、その店独自のゾーニングをしているわけで、慣れないとまるで本を探せないことになります。

で、思うのです。

本が好きな人は「本屋に来ると楽しい」とよく言います。あたしもそう思います。でも、ここまで書いてきたように、これまでの本屋と最近流行りの本屋では本の並べ方(見せ方)がまるで違いますから、同じ「楽しい」という言葉で括ってしまうことはできないと思います。現に、そういう書店に行ってみたあたしが、たとえば新宿の紀伊国屋書店とか池袋のジュンク堂書店で味わう楽しさを、これらの書店で味わうことはできません。

だからといって、こういう本屋がつまらないのかと聞かれれば、確かにつまらないと感じる人はいると思います。でも、あたしは、こういった本屋についても楽しいと感じます、感じられます。逆に、カフェや雑貨が併設された本屋は楽しいけど、新宿の紀伊國屋は楽しくない、と感じる人もいるのではないでしょうか? 本屋のというか、本の楽しみ方も人それぞれなわけで、そういう楽しみ方に合った、そういうさまざまな楽しみ方を提案できる本屋が増えたのだと考えれば、なんら不思議はないので、今後ももっと予想を超えた本屋が生まれてくるのではないか、そんな風に思います。

本屋とカフェ、本屋と雑貨、そして本屋と家電。あと、どんな組み合わせが考えられるでしょうか? いや組み合わせるという発想からしてダメなのかも知れませんね。コンビニと酒屋と薬局が一体となっているように、もっともっと異業種が組み合わさるのでしょうか? 少なくとも、ネットショップではなく、実際にその場で体感できるからこそのメリットを活かしたものになるのでしょうが。

つまりは本屋の楽しみ方なのか、楽しいことの一つに本屋が参加するのか……