立川という街

今宵は紀伊國屋書店の新宿本店で、谷口功一さんと速水健朗さんのトークイベントでした。1時間半のトーク時間では物足りない内容で、たぶんお二人も話したりなかったのではないでしょうか? さて、今宵のイベントについてはご本人が、あるいは聴きに来ていたたくさんの方々が今夜以降、ブログやFacebool、TwitterなどのSNSでいろいろ報告されるでしょうから、あたしは、あたしなりに興味を引かれたところを記したいと思います。

それはスナックです。やや本論と脱線したような話題ではありますが、話をうかがうと実は今日の郊外論などとも密接なつながりがあるのではないかと思われます。そんな小難しい話は抜きにして、スナックの起源はまだ調べきっていないと断わった上で谷口さん曰く東京オリンピックのころが嚆矢だろうとのこと。都会への人口流入が増え、核家族化も進み、これまで地縁・血縁的なものから切り離された人が都会に増えたことを背景に、着物を着た美しい女性が取り仕切るスナックが増えていった、との分析。

そこまではっきりと話されたか忘れましたが、つまりは都会に出てきて仕事に疲れた男性たちが癒やしを求めると共に、母親に甘えたいという願望のはけ口としてスナックは誕生したのかな、と思いました。その証拠にとまでは言いませんが、スナックの経営者って「ママ」って呼ばれますよね? あれは疑似家族なわけでしょうから。

と、そういう学問的、社会学的な話はおくとして、谷口さんの話の中で立川には立川出身のママだけでやっているスナックばかりが入っているビルがある、とのこと。立川は、最近でこそ行く機会が減りましたが、かつては書店営業で毎週のように行っていた街ではありますが、いかんせん、立川で飲むという機会には恵まれず、そのようなスナックがあるということは知りませんでした。

立川出身の人ばかりの店なら、お客も立川の地元の人が多いのでしょう。スナックというと年配の疲れたおっさんが行くところというイメージでしょうが、そういう店では地元のもう少し若い層も来るのだとか。地方でも地元の飲み屋として、都会よりは比較的若い年齢層もスナックに来るという話も出てました。そんな話を自分の頭の中で再構成していくと、「立川って田舎なのかな?」という思いがわき起こってきました。

確かに、吉祥寺を抜いて、駅の乗降客数は新宿以西でナンバーワン、伊勢丹や高島屋、駅ビルも北と南に林立し、モノレールも通る一大ターミナルであり繁華街でもあります。ただ、どうしても「住みたい街」では上位にはなれず、どことなくうらぶれたイメージ、治安や風紀の悪いイメージがつきまとっているのも立川です。イケアが出来ても払拭できたとは言いがたいですね。

そして、どことなく田舎っぽい雰囲気。こう書くと怒られますが、八王子は「ややにぎやかな地方都市」という感じで、立川は「東京のターミナルの一つ」という感じがするのですが、それはあくまで八王子と比べての話で(八王子の方、ゴメンナサイ)、新宿から中央線に乗って西へ向かうと、やはり立川は田舎だよな、という感じを受けます。

田舎と言っても「地方」という意味ではなく、あくまでベッドタウンであって決して東京ではない、という意味です。その証拠にと言うわけではないのですが、かつて読んだ本(書名は忘れました)に、今どきの若い子、記憶する限り、立川あたりの女子高生のことを、その文章では指していましたが、そういう子たちは東京の中心部、例えば渋谷とか表参道、更にはお台場のあたりへ行くことを「旅行に行く」と言うのだと書いてありました。東京の子が東京の別の街へ行くのに、それを「旅行」と呼ぶとは!

その本によると、最近の若い子は地元好きで、地元からあまり離れたがらず、友達も小学校以来ずっと地元にいて、そういう仲間同士で連んですごし、進学も就職もだいたい地元で完結している子が多いのだそうです。もちろん友だちづきあいも。遊ぶところも地元、成人してから飲みに行くところも地元。ほとんど地元を離れない、という若者が増えているとその本には書いてありました。

都心の方へ行くのを旅行と呼ぶようでは、やはり立川は田舎であり、地方なのではないか、そんな風に思ってしまうのです。

ところで、立川は上に書いたようなデパートがデッキで結ばれていて、ある種の空中庭園な街です。そのデッキから下を見やると、バスロータリーはともかく、なんとなく薄暗く、人通りもまばらな感じ。デッキ上でデパートに吸い込まれていく華やいだ人々とのあまりの落差に呆然としたことがありました。

そんな印象をつい最近受けた街が他にもありました。町田です。ここもJRと小田急はデッキで結ばれていて、その下は別世界のような感じでした。デッキ上から見たときに「どこかで見たことがあるなあ、そうだ、立川に似ている」と思ったのでした。