お店のご厚意によって

テレビを見ているとしばしば「特別に許可をいただいて店内で試食させていただいております」とか、「撮影のためタオル着用で入浴しております」といった字幕が出てることがあります。前者はデパ地下とか町歩きでグルメレポート的なことをするシーン、後者は旅番組などで温泉リゾートへ立ち寄ったりしたシーンでよく見かけます。

今の若い人は何の違和感もなく、つまりそんな字幕を気にもせず、そういった番組を見ているのでしょうけど、あたしは気になってしまいます。なぜなら、あたしが子供のころ、いや学生時代くらいまでは、今ほどこういう字幕が出ていなかったと思えるからです。

別にテレビを見ていて、この字幕がうるさい、というわけではありません。そうではなく、こういう字幕が出なくても「テレビだから」というのは誰にでもわかることではないか、と思うのです。つまり、普通に常識のある人なら、デパ地下の店先で買った商品をいきなり食べるとかしないでしょ、ということ。試食コーナーな試供品なら別ですが、そうでなければ、買ったら自宅などしかるべきところへ持ち帰って食べるのは常識だと思うのです。

それなのに昨今のテレビ番組はくどいくらい、こういう字幕が出ます。これってテレビを見て、同じようなことを要求してくるお客(一般人)がいるから予防線を張っているのでしょうね。

でも、同じようなことを要求するお客って、たぶんあたしが子供のころにだっていたと思うのです。テレビで紹介されていた旅館に行ったけど、テレビとは全然料理屋部屋の設備が違ってた、なんてことはよくあって、それについて文句を言う人もいたと思うのです。

でも、当時のお客はほとんどの人が「あれはテレビ番組なので……」というお店や旅館の説明を聞けば「まあ、それもそうだよね」と納得していたし、ぶち切れて喚きちらす人も少なかったと思うのです(皆無だったとは言いません)。だとしたら、最近のお客さんは、そんな説明では納得せず、あくまで文句、クレームを付けて自分の言い分を押し通そうとする人が増えているのでしょうか?

もしそうだとしたら、日本人のモラルは低下している、という主張にも頷けるところもありますが、常識というのも時代によって変わるものだと思いますし、かつてがあまりにもルーズだったと言えるのかも知れません。ただ、現在において一番大きいのはインターネットの普及、特に個人が発信できるという環境の変化でしょうね。たったひとつの事例でも、それを針小棒大にネットに投稿すれば、すぐにそれが拡散してそのお店の評判を落とすことができます。だからお店側も過剰な防衛に走り、テレビ放映の時も上述のような字幕を入れてくれるようにテレビ局に要請しているのではないかと思います。

何とも世知辛い世の中だなあとは思いますが……