自動発注

不景気なので書店も人が減っているのはこの数年来の傾向です。大手書店も街の小さな書店も同じです。どこも数年前に比べ、ずいぶんと人が減りました。もちろん出版社も減っています。出版社の人数が減ると、営業に外へ出る人の人数が減り、そうなると一人当たりの担当する書店の数が増え、その結果、書店を訪問する頻度が少なくなります。数年前までは一ヶ月一度は顔を出していた書店に、一ヶ月半に一度、あるいは二ヶ月一度しか行けなくなります。地方出張も以前なら年に6回行っていたのに現在は3回になった、あるいは地方や県、都市によっては数年に一度行けばよい方、という事態も生じています。

話は戻って書店の場合、出版社の立場から見ますと、以前ならレジはバイトが担当し、棚担当(たいていは正社員や準社員)の人は自分の担当する棚のあたりで書棚をいじくっていることが多かったものです。そこへお邪魔して、並んでいる本を眺めながら、ああでもないこうでもない、こうしようかああしようか、と話に花が咲いたものです。

それが最近は、棚担当の人がレジに入っていることが多くなりました。お客様あっての商売ですから、レジの仕事を投げ出して我々出版社の営業と話し込むわけにはいきません。それでも、比較的空いている時であれば(レジに何人も張り付いていなくても済むような時には)、レジからちょっと出てきて話をすることもできますし、そうしてくれる書店員の方も大勢いらっしゃいます。ただ、年々、そういうケースは減り、レジから出られない、ということが増えているようです。

書店の仕事はレジだけではなく、入ってきた本を棚に入れる、要らない本を棚から抜くという作業があり、本来、書店員の仕事のメインはこれだと思いますし、何をどこに入れ、何を抜くかが書店員の棚作り、腕の見せどころだと思います。結果的にこの時間が減ってしまい腕も見せることもなく、とにかく本を空いているところに差し込むだけ、という事態になっている書店も多々あるようで、バイトにやらせているお店も見受けられます。

そうなると、新刊は入ってきているけれど、本来棚に置いておくべき商品が抜けてしまっていても気づかない、ということになります。気の利いたベテランのアルバイトなら十分社員のフォローもできるでしょうけれど、そうでなければ、棚はどんどん荒れ放題です。

この状況を少しでも効率化しようという試みの一つに自動発注という仕組みがあります。商品が売れると、その記録が取次に転送され、取次の倉庫から自動的に補充されるという仕組みです。取次の倉庫になければ出版社に注文が来るわけです。うん、これは便利、これなら売れてから入荷するまでの数日の空きはできてしまうけど、棚のラインナップは自動的に維持されます。

と思いたいところですが、そうは問屋が卸さないのです。

書店を回っていて棚を見ると、自分のところの基本的な本が抜けているお店がよくあります。お店の方に指摘すると、対応はだいたい4パターンです。「あ、では補充してください」「いま、自動発注で回っています」「もう棚に入らないのでいいです」「売れないからいいです」というもの。最後の返答の場合、返品したのでもない限り、売れたから棚にないわけで、そういう本は棚に置かれるべき商品であり、「売れない」という返答がそもそもおかしなものだと思います。そして、こういう返答をされると、こちらとしては営業する気力が萎えます。

「棚に入らない」というのは、書店によって判断は異なるでしょうけど、棚に置くべき、揃えるべき銘柄の選択は正しいのか、そこが問題です。たとえば語学書の場合、あたしの勤務先は主として英語以外の語学を出していますが、うちとしてはどんなに売れていると主張しても、その語学はその店では扱っていないのであれば仕方ありません。昨今は中国語や韓国語が売れているのが全般的な傾向ですが(尖閣・竹島以降、ちょっと変わった?)、お店によっては中韓はさっぱりでフランス語やイタリア語が売れるというところもあります。

で、実は一番の食わせ物が二番目の「自動発注」で、次に行った時にはきちんと補充されているお店も多いのですが、補充されていないお店もやはりそれなりにあります。もしかすると、その間にちゃんと入ってきたけれどまた売れてしまったのかもしれませんが、そうかどうかはお店の雰囲気や店員さんの様子を見ればだいたいわかります。そもそも、そんなに売れる本なら一冊ではなく常に二冊棚に置いておいた方が、売り逃しがなくなるというものです。

それでも、出版社の営業としては「自動発注で回しています」と言われてしまうと、相当仲のよい書店員さんではないと、次の効果的な一手が打てません。それに仲良しの書店員さんなら自動発注で回しているなんて言い方はしないものです。

この自動発注という言葉、この五年から十年くらいの間に急送に使われるようになった気がします。それにはもちろん出版流通の改革、効率化という事態があったからですが、効率化はともかく、果たして状況は「改善」されているのでしょうか?