書店の方から聞いたのですが、このところネット上で「海外文学がもうすぐ絶滅する」と話題になっているんだそうです。主にツイッター上での話題らしいですが、かなり広く拡散しているらしく、しばらくはこの話題で持ちきり、とまでは言わないまでも、一部の人の間ではかなりホットな話題になっているようです。
というわけで、あたしもとりあえず「海外文学」と「絶滅」をキーワードにしてググってみましたら、それらしきサイトやツイートが多数ヒットしました。
上のキャプチャ画像は昨晩の結果ですので、現時点では検索結果が大きく変わっているかも知れませんし、ここ数日の盛り上がりとは無関係のサイトもいくらかはヒットしているかも知れません。それでもかなりの数に上ります。
念のために書いておきますと、ここで言われている「絶滅」とは「日本で海外文学の翻訳書が出版されなくなる」という意味です。つまり、出してもほとんど売れない海外文学は書店の棚からも外され、出版社も採算がとれないので刊行しなくなり、翻訳者もこれでは食べていけないので翻訳をしなくなる(あくまで商業出版としての翻訳を)、という負のスパイラル、悪循環に陥ってしまうという未来図です。
はっきり言いますと、海外文学は売れません。書店にあるさまざまのジャンルの中で売れないジャンルを挙げろと言われたら、真っ先にとは言わないまでも、かなり上位に海外文学が入ってくるのは間違いないでしょう。同じ海外でもファンタジーやミステリーはまだそれなりに売れるようですが、いわゆる小説の類いは売れないと相場が決まっています。
でも、海外文学が売れないのは今に始まったことではなく、以前から売れませんでした。かつてラテン文学のブームが起きた時期もありましたが、具体的な数字こそ知りませんが、その当時でも飛ぶように売れていたのでしょうか? むしろ、そのころはいまよりもはるかに本がよく売れていた時期で、海外文学以外もそれなりに売れていたのではないでしょうか。
で、今も昔も売れない海外文学ですが、それでも一定数の読者はいます。その人たちにきちんと届けられるような出版は現実には可能ですし、現に多くの出版社がやっています。海外文学で知られた出版社であれば、どんな内容でどのくらいのページ数でどのくらいの価格であれば十分採算がとれるのかわかっているはずです。みすみす赤字を垂れ流すような出版活動なんてするわけがありません。結果として思ったように売れなくてトータルでは赤字になってしまったとか、逆に書評や口コミが広がって予想以上に売れてかなりの利益も出た、ということだってありますが、それらは例外であって、だいたいは予想の範囲内、ものすごく利益がでたわけでもないけど、赤字にはなってないというあたりに落ち着いているはずです。
以前も今もこんな感じだったので、そりゃもっと売れてくれるに越したことはありませんが、あたしは現状でも十分ではないかなと思っています。だって、落ち込み幅で言ったら、海外小説などとは比べものにならないほど悲惨なジャンルが他にもありますから。とりあえず出版活動を続けられる程度の売れ行きはあると考えています。
ちなみに、実際に出版社の営業として海外小説の売れ方を見ていますと、何度かこのダイアリーでも書いた覚えがありますが、一部の決まった書店では海外小説がよく売れます。それも、こちらが「これはいける」と予想したものが思った通り、発売初日から複数冊売れています。こういうお店では価格はあまり関係ありません。また、確かに安い方が売れるといううっすらとした傾向もなくはないですが、海外文学に関しては「高いから売れない」という理屈が通らないことが多いです。いまだに『2666』が売れ続けているのが何よりの証拠です。
この先、上に書いたように、多くの書店で「海外文学」コーナーは縮小、あるいは廃止の憂き目に遭うでしょう。そうなると、ますます「一部の決まった書店」では海外文学が売れるようになると思います。だって、そこへ行かないと売っていないわけですから。もちろん、近所の本屋でも取り寄せることは可能でしょうけど、取り寄せたら買わないとなりません。パラパラと数ページを立ち読みして買うかどうか判断することはできません。(アマゾンなどネット書店が返品可能なのが不思議です。)そうなると、やはり確実にその本が置いてあると予想される「一部の決まった書店」にお客さんが集中することになり、そのお店では世間での退潮を尻目に「海外文学がよく売れる」という現象が起きると思います。
では、そんな「一部の決まった書店」が全国で何店舗くらいあるのか? あるいは「一部の決まった書店」ではない本屋で、海外文学好きな書店員がいたとして、自分が働くその店を「一部の決まった書店」に変えるにはどうしたらよいのか?