夏休みのルサンチマン

このところ、朝の通勤電車に大きなスーツケースを持った人が目立つようになりました。夏休みでどこかへ旅行へ行くのでしょう。あの荷物の大きさから見て海外旅行? となると中央線・山手線を乗り継いで、浜松町からモノレールで羽田へ向うのでしょうか?

いずれにせよ、あたしのような仕事へ向う人にとっては、あの大きな荷物は迷惑以外の何ものでもありません。もちろん、持って入るなと言うつもりはありませんし、どうぞ気をつけて楽しんできてください、という気持ちで眺めているのですが、心の中に渦巻くルサンチマンは隠せません。

大きな荷物を持っているのだから、もっと機敏に動いてくれないか。周りの状況を見て、車内の邪魔にならないところに立ってくれないか。そんな風に思います。たいていの人は、朝のこんな時間に通勤の中央線に乗ったことのない人ばかりですから、通勤電車の混み方、主要ターミナルでの乗り降りの際の人の激流、そんなもの未体験のはずです。ですから、いつもの通勤電車の秩序を乱すこと甚だしいったらありゃしません。お休みに旅行へ行くのは構いませんが、働いている人、仕事へ行く人の邪魔にならないようにしてくださいよ、と思います。

で、たぶん、あたしがそんなどす黒い感情を抱くのは、自分が休めないからとか、休みが短いから羨んでいるからだとか、そんな理由ではありません。あたしの会社、休もうと思えば休めますし、会社としての休みは短いものの、有休を使えばそこそこ長い休みは取れます。ですから、休みの単調について恨みがましく思っているのではありません。

あたしがもやもやとした感情を抱いてしまうのは、たぶん愉しげにしているカップルを目にしてしまうからです。こちとら、生まれてこの方恋人なんていたことがない身。ですから、もちろん恋人と二人で旅行なんて体験したことありません。だから、そんなカップルを目にするといても立ってもいられなくなる、というわけです。

カップルだけではありません。かわいい子供を連れた若い夫婦などを見ると、「ああ、あたしにはもうあんな家庭を築くことはできないんだな」と思い、やはり自分が惨めに感じられなくもないです。結婚して家庭を持つことだけが人生の幸福ではありませんし、泥沼の愛憎劇が起こりかねないことも知っていますが、それでも素敵な家庭を築いている人はたくさんいるわけで、少なくともあたしには、そういった種類の幸せを感じる機会は訪れないんだなあと思うと、身から出たサビ、誰が悪いのでもなくすべて自分の責任と頭ではわかっていても、やはりなんとも腑に落ちない気持ちを抱いてしまうのです。