これぞYA棚?

YA(ヤングアダルト)出版会の仕事で、小平市にある白梅学園高校を訪問してきました。ここは大学、短大、幼稚園、そして中高一貫の清修学校が併設されている学校で、白梅学園高校だけでも約700名の生徒がいるそうです。

なにゆえ白梅学園を訪問したのか。それはYA出版会が毎年作成している「朝読ガイドブック」を全校生徒に配布するために大量購入していただいた学校だからです。毎年、学校で数冊購入していただいているところは何校もありますが、全校生徒へ配布するために人数分を購入してくださるようなところは滅多にありません。果たしてどんな図書館で、どんな活動を行なっているのか、興味津々です。

もちろんYA出版会とはいえ、実際の中高生に接する機会はほとんどなく、こういう機会に高校現場の声を聞かせていただけるのは、会の活動の大きな励みにもなります。そんなわけで勇躍、本日の訪問となったわけです。

学校は西武線の鷹の台駅から徒歩15分ほど。往路は国分寺からタクシーを使いましたが、20分ほどでした。小平の住宅地を抜け、周囲には創価高校、朝鮮大学校、武蔵野美術大学などが固まっており、鷹の台駅を挟んだ向こう側には津田塾大学もある、ちょっとした文教地区です。

学校は敷地内が工事中で、恐らく新校舎などの建設やグランドの整備を行なっているのでしょう。図書館は授業などを行なう校舎とは別で、司書の先生は「プレハブ」とおっしゃっていましたが、保健室と一緒の建物でした。放課後の時間だからでしょうか、建物の入り口は電気が付いていないのでやや薄暗い感じでしたが、図書館は700名の生徒数に対しては手狭かもしれませんが、決して狭すぎるという感じは受けませんでした。

部屋の半分はご覧のように棚が並んでおり、その前に文庫・新書を収納する回転棚が並んでいます。これまでYA出版会の研修旅行では中学校の図書室を見学させていただくことが多く、やはり子供向けの蔵書だなと感じることが多かったのですが、高校の図書室は違います。並んでいる本がほとんど大人向きと言ってもよいものが過半です。近所にある公立図書館の棚を見ているような気分です。

あまり授業の調べもの学習には活用できていないとのお話でしたが、これだけの本があれば、高校の授業向けとの調べものとしては十分ではないでしょうか。ちなみに、これが大学の図書館になると、PCルームがあって、本だけではなくネットでも調べものができるような環境が整えられているはずです。そこまでは求めなくとも、生徒が自由に使えるパソコンが一台でも置いてあれば、という気もしますが、それは帰宅して振り返ってみてわき上がる感想であって、実際に図書館を拝見していた時は、たくさんの本が整然と並んでいて、図書館独特の懐かしい匂いに包まれて、とても気持ちのよい一時でした。

それにしても岩波新書や学術文庫、何冊か中公クラシックスまで並んでいましたが、そこらの小さな公立図書館よりも充実しているのではないでしょうか? 別冊太陽も置いてありましたが、上掲写真に写っているような開架の書籍が1万冊ちょっと、その他に閉架の書籍が3万冊弱あるそうです。

この写真は、入り口の一番近くにある小説の棚です。書店で言う文芸書コーナーです。ここには海外文学は並んでいませんが、日本人の作家が姓の五十音順で並んでいます。

よく書店の方から「YAの棚をどう作ったらよいかわからない」という意見をいただきますが、ひとまず小説に関して言えば、こちらの図書館のこの棚を見ていただければよいのではないでしょうか? 小説だけではなく、ノンフィクションなどさまざまなジャンルが混じっているからYAは棚を維持していくのが難しいと言われますが、とりあえずは小説に絞って作るとするなら、ここの棚はとても参考になるのではないでしょうか?

東野圭吾や万城目学もあれば、宮部みゆき、皆川博子も並んでいます。変に子供っぽくせず、大人向けの本もまぜこぜになって並んでいますが、なんかすごく楽しそうな棚でした。見ているこちらも楽しくなりますが、本が楽しそうに棚に収まっている感じがしました。あたしの好きな宮木あや子さんの作品も数冊並んでいましたが、高校生が読んでも毒のあまり強くないものがセレクトされていて、ブラックな宮木作品は身長に排除されています。

たぶん、実際の書店でこれだけのYAコーナーを作ってしまったら大変でしょうけど、高校生に向けてアピールするにはこれくらいの選書でないとダメなのかな、という印象を受けました。たぶん女子高生には手が届かないほど高い棚、ジュンク堂よりも高そうな棚に床から一気に並んでいるこの棚の迫力はなかなかのものです。それがニコニコしながらこちらに向かってくる感じなのです。

惜しむらくは、先生も指摘されていましたが、校舎と繋がっていたない建物なので、雨の日は傘をささないと来られない、プレハブなのでトイレがなく、向かいの校舎まで行かないとならない、といった難点があって、本が好きな決まった子以外は図書室を利用している生徒はそれほど多くはないようです。

もったいない、と感じるものの、かく言うあたしだって、自分の高校時代を振り返って、図書室が学校内のどこにあったか思い出せないわけですから(←つまり図書室を使っていなかった!)、白梅の生徒さんを責める資格はありません。ただ、それでもこうして偉そうに出版社の人間です、と仕事なんかできているのですから、嘆く必要はないのでしょう。そもそも700名からの生徒がみんな本好きで、本ばかり読んでいたら、それはそれで学校としても問題でしょうからね。