2006年8月28日

配本数

本は一部例外もありますが、基本的には委託販売なので、わかりやすく言ってしまえば、本屋さんに預けているわけで、売れなかったら出版社へ戻ってきてしまいます。

でも、とりあえずは本屋さんへ出荷できるので(直接には取次会社へ出荷してそこから本屋さんへ渡ります)、その時点で売り上げが立ちます。

この業界の、今となって陋習とでも呼ぶべきこの制度、もちろん陋習と呼ばれることを打ち消すに足るだけのプラス面もたくさんありますが、この「実際 に売れることとは無関係に売り上げが立つ」という仕組みのおかげで、「とにかくたくさん出荷すれば売上金額が増える」という現象を生み出してきました。

つまり、ある出版社が「今月は出版する新刊が少ないから、あまり売り上げが伸びないよー」という場合、「じゃあ、一点ごとの出荷数(←これを配本数と呼ぶ)を増やして穴埋めしよう」ということになりがちです。(そうそう簡単に増やせるものでもありませんが......汗)

あるいは、「何でもいいから本を作って発行しちゃえ」ということにもなりかねません。これが昨今の出版点数の大幅増という現象を招いている大きな要 因なんだと思います。とにかく出版すれば一時的にはお金が入ってくる、こんな自転車操業をやっていたのでは、早晩破綻するのではないでしょうか。(あっ、 出版社がというのではなく、このシステム自体が、という意味で。)

これだけ出版物が増えても、最近の傾向として、何百坪もある大型書店の新規開店が増えているので、それなりに置けちゃうんですよね、本を。そうなる と、読者も馴らされてしまって、本があまり置いていない小さな本屋よりも、たくさん置いてある大きな本屋へ行ってしまいがち......。

もちろん、小さくても個性的な品揃えで客を集めている本屋もありますから、大きいことはいいことだ、と一概には言えないんですけど、そこまでわかる 読者ってのも数少ないので、結局は大型書店がそれなりに客を集め繁盛し、小さな書店がつぶれていくという、あまり嬉しくない傾向が顕著です。

さてさて、話はタイトルに戻って配本数。

こういう大きな書店ですと、売れそうな新刊はドドーンと積まれています。あたしの勤務先なんかの本ではそうはいきませんが、大手出版社の売れ線の本なら百冊単位で積んであることもざらです、っていうより、それが普通。あたしのところの本だって数十冊は積んでもらえます。

そういう大きな書店って、ある新刊書が数冊、例えば2冊とか3冊くらい並んでいるくらいじゃ逆に全然目立たなくなってしまうんですよね。もちろん、 そこからジワジワと売り上げを伸ばしていくこともありますが、そんな僥倖は滅多になく、やはりガツンとたくさん並べてもらうのが早道だったりするわけ で......。

そうなると、実際には売れてもしないのに並べてもらうためにたくさんの本を配本しなくてはならなくなります。それはそれで、上述のように金額は上がるので出版社としては嬉しいことなんですけど、果たしてそれでいいのか......。

特に、あまりに配本が多くて手持ちの残本が少ない場合、書評などが出てあっちこっちの書店から「お客様からの注文があったので一冊ください」なんて 注文が入ったときに、売る本が無くなってしまっていることすらあります。こういう注文は、大きな書店で並べているだけ(←こういう言い方は、頑張って売っ てくれている大型書店さんに失礼かしら?)に対し、確実に「売れる」わけですから、こちらとしても最優先したいのですが売る本がない(!)なんて......。

なので、大型書店が増えてきて、それなりに配本数は増やしやすくなりましたが、本当にどの程度配本して、どの程度手持ちに残しておくか、ますます難 しくなってきている気がします。少なくとも、大型書店が増えたりネット書店が流行ったりという少し前まではなかった現実があるわけですから、十年選手、二 十年選手の経験もなかなか活かしづらくなっているのではないか、そんな気がします(特にこの業界の頭の堅いオッサン連中を見ていると......爆)。

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