2006年5月 6日

かたみ歌

かたみ歌』読了。

東京の下町のとある商店街とその周辺に暮らす人々に怒った不思議な短編物語集。各物語はそれぞれ独立した話ですが、同じ商店街を舞台にし、登場人物も重なり合い、全体でも一つの物語を構成しています。なので、収録されている順番に読むのがオススメです。

前編を通じてキーとなるのは、商店街のレコード屋がいつもかけているレコード(書店街の名前を意識している選曲?)と、この不思議な出来事を引き起こしたと暗示される場所・覚智寺というお寺。そしてもう一つ、都電。

今の東京には都電はこの一本しか残っていませんが、かつては現在の地下鉄よろしく、かなり縦横無尽に走っていたようです。かくいう、あたしは小学校 入学前まで巣鴨(おばあちゃんの原宿!)に住んでいて、ちょうど都電が近くを走っていたということもあり、この物語の世界は、非常にノスタルジーを感じま した。もちろんあたしは巣鴨の地蔵通商店街をフィールドとしていたわけで、小説の中の商店街よりははるかににぎやかなところだったはずです。

さて、朱川氏の『都市伝説セピア』に比べると、この作品はオカルトっぽさが薄く、また『花まんま』に比べると、ほろっとさせるようなセンチメンタル なところが薄く、では何が印象深いのというと、時の流れを味わいながら生きていた、今から三、四十年ほど昔の東京の下町の人々の生活です。

もちろん、そう思うのはあたしの勝手な感想であって、当時の人がそんな風に生きていたとは思えません。たぶん、当時は当時なりに必死に目一杯全速力で走るように生活していたと思うのです。

たぶん、最近ブームの昭和三十年代懐古趣味なのかもしれないですが、同じ東京でも都電の近所に住んでいる人っていうのは、今でも独特な生活感覚を持っているのではないかと思いますが、違うんでしょうか?

コメントする