2012年11月 9日

不思議な音の響き

先日行なわれた、キルメン・ウリベ氏の来日記念講演会。6日には東京外国語大学で、7日にはセルバンテス文化センターで、それぞれ行なわれました。あたしは外大の方へ、訳書の展示販売要員として参加し、講演も聴講させていただきました。



正直なところ、『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』はつかみ所のない作品でした。主人公はニューヨークへ向かうためビルバオの空港から飛行機に乗り込みフランクフルト経由でアメリカを目指します。そのたびの途中、主人公が自分の父や祖父、そして一族の歴史を時間の流れには関係なく、思いつくままに思い出していくという内容です。

特にこれと言って大きなエピソードがあるわけでもなければ、作品全体で謎解きが仕込まれているわけでもありません。ただただ一族の昔話が綴られると言ってしまうと身も蓋もありませんが、そんなストーリーです。

その一族の話は、北の海のじめっとした暗いところもあれば、地中海に面したからっとした陽気な明るい部分もあり、印象も一筋縄ではありません。フランコの時代はともかく、別に辛く悲しい一族の歴史というわけでもなく、かといって華麗なる一族でもありません。たぶん、バスクの人としては平均的な一族であり、歴史であるのでしょう。

そんな読後感を持って臨んだ講演会。

ウリベ氏の話を聞いて、この作品というものがわかった気がしました。ウリベ氏はこの作品で、バスクについて、バスク人について、それを自分の一族の歴史を題材として描き出したのであり、バスクというものを描き出すことが最大の目的であったのではないかと思われます。

別に誰かヒーローの話を語るのでもなく、恋愛ストーリーを紡ぐのでもなく、とにかくバスクとはこういうものだと知って欲しい、その思いが作品となって表われてたのではないでしょうか。

あたしは、そんな風に感じました。つまり、この作品は、ウリベ氏にとって名刺代わりなのではないか、そんな気がしました。

講演会はスペイン語でしたが、ウリベ氏が朗読してくれたバスク語の詩。何とも言えない音の響きでした。

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