2012年6月25日

海外ノンフィクション

この数年来、あたしの勤務先から出ている本の中で、比較的書評にも取り上げられて話題になり、版を重ねる好調なジャンルに近現代史ものがあります。近現代史と一口に言っても漠然としておりますが、社内の共通理解としては、第一次大戦、第二次大戦前後から20世紀末までを扱ったものという漠然とした感覚があります。

旧共産圏の崩壊により新たに公開された資料を駆使した成果が欧米で発表され、その翻訳を刊行するというのが始まりだったような記憶がありますが、ここまで刊行してきたラインナップはどれも厚めの本ばかり、半分近くは上下本というボリュームです。ですから、もちろん値段も5000円前後になるのはごく当たり前、安くても3000円台、上下本で10000円前後という本がひしめいています。

こんな書店店頭でスペースを取ってしまう巨冊たち、値段が値段ですから、好きでないと買わないし読まない、という本だと思います。最近出したもので言えば以下のようなものたちです。

  

比較的手に取りやすい、読みやすい厚み、値段ものもありますが、まあ暇な時間にちょっと読んでみようという感じの本ではありません。

いや、それくらい軽い感じで読んでいただけるリーダブルなものもたくさん含まれているんですが、500ページ、600ページで数千円の本と聞いたら、暇な時に寝っ転がって読むというわけにはいきませんね。

で、問題はそこなんです。

こういった本、いわゆる研究者の書いた専門書というわけではありませんが、その道の専門家に読ませてもかなりのレベルを持った本であります。一般書と呼ぶにはちょっと抵抗があります。こういう本、本屋だとどこに置いてあるでしょうか?

歴史の棚でしょうか? 上に挙げた3冊なら左から順にロシア史、ドイツ史、中国史ってところでしょうか?(一番右は『草枕』とあるので、文芸評論の夏目漱石コーナーかもしれません。) はい、確かにそのような棚に置かれている書店も多いです。

が、大型店などでは、これらはすべてまとめて「ノンフィクション」の棚に置かれていることがしばしばあります。『『草枕』の那美と辛亥革命』以外の2点は、更に分けるなら「海外ノンフィクション」の棚に置かれていることがあります。この「ノンフィクション」というジャンル、書店の中では文芸書の隅っこの方に位置していることが多いです。人文書の歴史の棚とはかなり離れています。

ある本をどの本に置くかというのは書店の各ジャンル担当者の裁量ですが、より売れるのではなかろうかという棚を勧めるのは出版社の営業の仕事です。そこで歴史担当の方に話を振ると、「へえー、そんな本出ていたんですか、知りませんでした。こっちでも置いてみます」という方もいれば、「うちは、そういう本はすべて文芸のノンフィクションなので...」という方など、書店員さんの反応はさまざまです。どっちにも置く融通無碍な書店も多々ありますが、店内の検索機のために複数のジャンルには置けないという書店もあります。

「どっちの方が売れてます?」と聞かれることもありますが、お店によって異なることもあり、一概にこちらですという答え方はできません。お客さんもよく行く書店だと「この本はあそこに置いてあるだろう」とだいたい理解しているようなので、歴史とノンフィクション、どちらの棚を探しに行くことが多いか、書店に取材してもよくわかりません。もちろん、明らかにどちらかの棚からの方が売れているというデータがあれば別ですが......

ノンフィションというジャンル、棚を眺めてみますと、あたしの勤務先から出しているように「歴史」に持っていった方がよさそうなもの、「国際情勢・海外(各国)事情」に置いた方が売れそうなものが結構並んでいます。少なくとも、あたしならそれらの本を本屋で探す時は、歴史や海外事情の棚へまず向かいます。海外ノンフィクションなんていう発想は全くありません。

お前にとって「ノンフィクション」ってどういうもの? と聞かれたらうまく答えられませんが、そのあたり書店の人たちはどういう線引きをしているのかと思う今日この頃です。

ちなみに、最新刊『台湾海峡一九四九』は、著者が台湾の作家と言うこともあり、「文芸」の一部門である「海外ノンフィクション」と相性がよさそうですが、これもあたしなら「海外事情」の「中国・台湾」の棚を探しに行くだろうと思います。いま読んでいますが、小説のように面白いことに間違いありませんが......

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