2012年5月28日

「売れていない」と「売っていない」

書店営業の主要な任務は、売れている本をプッシュして、返品させないようにするとか、追加注文をもらうようにすることであります。

「返品させないようにする」という言い方では表現が悪いかも知れませんが、「この本、このところ売れているんですよ」という情報を提供することで、目立つ位置に置いてもらうようにするのが本来の目的です。

ただ最近はさまざまな段階で返品率の向上、改善ということが叫ばれ、追加で注文を出してくれる書店が少なくなりました。もちろん、これまでがかなりアバウトな発注の仕方であったという面はありますが、返品率という数字に睨まれ、もっと並べればまだまだ売れるのに、と思うことも時にあります。

ジャンルによって事情はかなり異なりますが、例えば人文書などで新刊が3冊入荷したとして、一週間か二週間で2冊売れたとします。出版社の営業としては、特に書評も出ていない段階で、6割以上の消化率になっているわけですから、さらに追加注文をもらってさらに売れるように働きかけたいところです。以前なら確かにこのような場合、追加で5冊、という書店が多々ありました。

それが最近は、「ああ、よかった。あと1冊だ。これなら返品しないで済む」と考え、せっかく返品もしないで1冊まで減ったのに、追加注文なんてもってのほか、という書店が増えているような気がします。そういう気持ちもわかります。こちらだって無理矢理注文を取ろうとまでは思いませんし、ましてや勝手に押しつけるなんてことは致しません。

でも、こういう場合、その残った1冊が売れたらどうするのでしょうか? とりあえず一冊注文して、しばらくは棚に1冊は在庫しているようにするのでしょうか。それともきれいさっぱり売り切っておしまい、なのでしょうか。次から次へと新刊が到着する書店現場では、後者のやり方を選択する書店、書店員さんも多いと思いますし、着実増えている気がします。

そうなると、このお店ではその本は3冊売れたということになりますが、出版社としてはタイミングよく追加注文をもらっていれば、あと数冊は売れたのではないかという気持ちを抱えることになります。もちろん、本の内容や値段、その書店の客層によっては3冊が精一杯のお店もあれば、10冊くらいは行けそうなお店もあります。そういうお店の特徴をつかんで勧めるのが営業の腕の見せどころなのですが、昨今は上に書いたように、最初から追加など滅相もないという書店が多くなっていると感じます。

3冊入って全部売り切り返品なしなんて、返品率を下げろという圧力が高まっている書店現場では模範的な成績でしょう。でも、もしかしたら5冊売れたかも知れないと考えると、6割の達成率にしかなっていないとも言えます。

売れるか売れないかはやってみないとわかりませんから、書店側の言い分も出版社側の言い分もどちらも正しくもあり、誤ってもいて判断が難しいところです。

ただ、こういうことは言えます。

その本を売り切った書店では、売り切った後、当然のことながら、その本の売り上げが立つはずはありません。その状態がしばらく続いたとして、そんなタイミングで出版社から「売れているので追加注文いかがですか?」と問われても、直近の売り上げは0冊のはずです。このところ売れていないから追加は見送るというのがデータから読み取れる回答かも知れません。でも、置いていない本が売れるはずはないわけで、「置いていたなら」というifの話は後の祭りではありますが、時にはそういう事例も起こります。

いや、たぶん全国的に、人員削減で十分に棚を触れていない書店員さんが、事務所のパソコンのデータだけで在庫管理をしていると、きっとこういう自体が頻発しているのではないでしょうか?

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