2012年3月13日

いきなり文庫

いきなり文庫、と言っても、どこかの出版社が新しい文庫のレーベルを立ち上げたわけではありません。最近目立つ、文庫本の帯の謳い文句のことです。今朝の朝日新聞に記事が出ていました。

広がる「いきなり文庫」 そのわけは?

「わけ」については記事を読んでいただくとして、このダイアリーでも何度か書いたように、文庫本の方が単行本よりも採算が悪くなるのに、どうしてこういう風潮が生まれるのでしょう?

例えば、2100円の単行本と、700円の文庫本で同じ本が出ていたとしたら、どちらを買うでしょうか? まるで興味のない分野の本であればどちらも買いませんが、ちょっと興味がある場合、文庫本ならとりあえず買っておこうか、買ってみようかという気になるのは事実です。出版社としては、この「とりあえず買って」くれるお客さんがどれくらいいるのか、具体的に書けば、単行本の場合の購読者の何倍いるのかを予想するわけです。

上の例、消費税を考えなければ、文庫本は単行本の3分の1の値段です。同じ売上金額を上げるには、文庫本は単行本の3倍の冊数を売らないとなりません。物によっては3倍以上売れるものもあるでしょうし、それどころか5倍、10倍売れる商品もあると思います。でも、2倍しか売れなかったらどうでしょう? 書評が出たり、有名人が取り上げたりしてブームが出来ると加速度的に売れるようになりますが、そうでなければ、必ずしも値段の差に反比例して購入者が増えるとは限りません。

例えば、図版がきれいな本の場合、文庫本だと図版が小さくなったり、カラー図版がモノクロ図版に変わってしまうこともあります。そうなると、安いからといって文庫本を買うとは限りません。また特殊なジャンルの本の場合、海外文学などもそうだと思いますが、ほぼ読者数が限られていて、多少の値段の高さには関係なく購入してくれる読者がいるようなジャンルの場合、単行本を買ってしまったら、改訳されたとか、文庫ならではのおまけがないとむしろ単行本以上に売れない文庫というのも生まれてしまいます。

そしてこれが出版社的には決定的なのですが、初版はともかく重版を決める場合、単価の高い単行本の方が少ない部数で重版が出来ます。それほど大きな売り上げが見込めない場合、それでもちょっと話題になっているような時、市場の需要に応じて少部数で効率よく重版が出来る単行本の方が重版される可能性は高くなります。(単行本でも値段を安くつけすぎたものは別です。)

それができると、結果的に市場から本がなくならず、ある程度の期間買えるようになりますし、本屋・出版社からすれば売れるようになります。基本的には本の性格に応じて文庫にするか、単行本にするかと決めればよいと思いますが、とりあえず、大手出版社にお願いしたいのは、単行本を出して一年かそこらで文庫にするのはやめてもらいたいということです。


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