2012年2月17日

ピタッと止まる?

ピタッと止まると言っても、ゴルフのグリーン上の話ではありません(笑)。本の売れ方のことです。

この数年、特に外国文学作品で感じるのですが、刊行して数日から一週間程度でかなり売れるのです。「えっ、ガイブンでもこんなに初速がいいの?」と思えるほどの消化率です。このペースで売れれば、すぐに重版だ、と言えるような勢いのこともしばしばです。

どうしてこういうことが起きるのでしょうか? まだ刊行間もないし、広告も出たか出ないか、書評なんてかなり先の話、出るかどうかもわからない状況なのに。

考えられるのは、Twitterのようなネットです。各社同じだと思いますが、こんどこういう本が出るという情報がウェブサイトだけでなく、Twitterや昨今ならfacebookなどでも流れます。ほぼ正確な刊行日がわかりますので、広告など待たなくても本屋へ買いに行けるわけです。それに、とかくネットでは「あの本が出るの待ってたんだ」とか、「やっと邦訳が出たよ」といった話題で盛り上がりやすいですから、ワクワク感が増すのかも知れません。

でも、これだけでは、売れることの理由にはなっても、すぐに売れ始めることの理由にはなりません。

そこで考えられるのは、品切れ警戒感ではないかと予想されます。かつてのバブルの頃と異なり、最近の出版社は本をたくさん印刷しません。昔なら初版一万部、二万部と言っていたのが、最近では5000部や3000部からスタートという本がざらになっています。そうなれば、もともとがそれほど売れるわけではない海外文学作品や人文系の専門書は、もっと部数が少ないことが予想されます。

となると、あらかじめこういう本が出るとわかっている、しかし、その本はあまりたくさん発行されるわけではない、早めに買っておかないとすぐに品切れになってしまう可能性が高い、という思考回路が働きます。そもそもが売れないだろうから少ししか作らない本ですから、そう簡単に重版、増刷なんてことはあり得ません。つまり、最初にでたときに買っておかないと二度と買えない、あるいは古本市場で買うしかない、という判断に行き着くわけです。

この推論がどこまで確かなのかわかりません。もちろん、理由はこれだけではないでしょう。ただ、これが理由の中でかなりのウェートを占めると言ってもよいのではないかと、あたしは密かに思っています。その理由が売れ方です。

早い段階で売れると上に書きましたが、もう一つ特徴的なのは、ほぼ決まった書店で売れると言うことです。つまり、入荷した当日から売れ始める、時には初日で完売(そもそもの入荷数が少ないのですが......汗)に近いお店もある一方で、一週間、二週間まるで売れないお店もあるのです。

かたや売れるお店が最初の二週で二桁に乗せようかというのに、決まったお店以外では全く売れていない、そういう現象が、これまたしばしば起こるのです。

はっきり書きますと、例えば海外文学の場合、売れる店は大都市のターミナルに立地する大型店です。そういうお店は海外文学の棚が十分にあり、英米に限らず広く海外文学作品を取り揃えています。読者の側からすれば、初版部数が少ない海外文学作品が、広く日本中の書店に行き渡るわけがない、小さい書店、海外文学コーナーがないお店には入荷しないだろうと予想するわけで、ではどこに行けば手に入るのかと考えれば、大型店、それも海外文学が充実しているお店だとなるわけです。

この結果、ある特定のお店だけで、かなり渋めの本でも早い段階から売れるのに、それ以外の書店ではほとんど売れないという状況が起きるわけです。

と、偉そうに分析してみましたが、ここまでは出版社や書店に勤めている人であれば、そして本や本屋が大好きな人であれば誰にだってわかること、知っていることです。別にあたしが発見したことでも何でもありません。

問題は、出版社としてここからです。たぶん、「例外的に売れるお店」と言うのは店舗数的に言えば、全国の書店の0.1パーセントにも見たいないのではないでしょうか? そんな僅かなパーセンテージのお店の売り上げだけで、その後の動きが予想できるかと言うことです。

つまり、買うべき人が売れるべき書店で買い尽くしてしまったら、そこで売れ行きはピタッと止まってしまうのではないかと言うことです。最近の擁すでは、「買い尽くす」までがだいたい二週間から三週間ほどです。三週間目くらいで売れ行きは落ち着いてきます。ただ、ここまでで「売れるべき書店」ではかなり売れているので追加注文が来て、こちらの在庫が少なくなってきています。(←もともとの製作部数が少ないですから!)

ところが、必ずしも出るとは限りませんが、四週目、つまりひと月くらいすると、こんどは新聞や雑誌などで書評、紹介などの記事が出るようになります。そうすると、いままでほとんど売れていなかった書店でもようやく売れるようになります(それでも売れないことも多々あります......涙)。

そして本屋の人は店頭にあった本が売れると、「ああ、売れてくれてよかった、返品しないで済んだ」と思う場合と、「売れたから追加注文しようかな」と思う場合に分かれます。後者の場合の勢いが強いとき、出版社は悩むのです。

書評のお陰で書店店頭の在庫が売れたので、出版社としても大量の返品が帰ってこなくて済むという判断がまずあります。たとえ書評が出たといっても、買ってくれる読者がそういきなり増えるものではありません。文庫や新書、日本人作家の小説なら値段も安いので「話題になってるから買ってみよう」という人がいる可能性はありますが、値段の張る海外文学や人文書は書評が出たからといって飼う人が劇的に増えるとは限りません。

でも、時には書評などの影響で劇的に増えることもあるのです。

増えるのか増えないのか、ここが悩みの元凶です。書店から追加注文が来るからと言って、それが必ずしもすべて売れるとは限りません。多少高くても必ず買ってくれるコアな読者はもう買っている、これからは書評を見てちょっと関心を持った人が買ってくれるか否かという段階です。買ってくれればいいけれど、買ってくれなかったら重版してもまるまる残ってしまう危険性があります。果たして売れるのか売れないのか、悩みはつきません。

ある程度、数値的な経験則は各社が蓄積しているでしょう。でも書評が面白かった、買いたくなるような書評だったとか、その本自体のテーマや内容(←タイムリーであるとか、日本人に馴染みがあるとか)という、数値化できない要素の占める割合が高すぎます。ここが最大のネックなわけです。



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