2012年2月 2日

配本、返品、在庫

本は、委託配本と言って、「売れるかどうかわからないけど、とりあえず置いてみてください」という感じで、刊行から三ヶ月は自由に出版社に返品できるという条件で本屋に並べてもらっています。多くの出版社がそうしています。

ただ、だからといって一方的に大量の本を本屋さんに送りつけることもできませんから、あたしの勤務先ではあらかじめ「こんな本が出ますよ」という新刊案内を書店に送り、書店から「では、何冊ください」という注文(申し込み)を募って、それに基づいて出版物を配本しております。

その時、書店側に「この本は何冊くらい売れそうだな」「この本は売れないだろうなあ」という判断があるように、出版社にも「あの書店ならこの本は何冊売れるだろうな」「この書店はこのジャンルが得意だからたくさんの注文が来るだろうな」という予想が働きます。この予想が、この一、二年狂うようになりました。

「狂う」という表現がおかしければ、予想に違うと言っても構いませんし、「注文が慎重になっている」と言った方がより正しいでしょう。そこに出版社側の気持ちを加味すれば、「書店が弱気になっている」とも言えます。

新聞でもしばしば報道されるように出版業界は不況が長引いていて回復の兆しが見えません。時々話題になって売れる本もありますが、業界全体の悪さをカバーするにははるかに及びません。

出版社は、返品されるかも知れないけどとりあえず出荷すれば売上げが立つのでたくさん作ってたくさん配本しようとします。そのため、出版社からすれば「いっぱい出ていって、いっぱい戻ってくる」、書店にとっては「たくさん仕入れて、たくさん返品する」という悪循環が続いています。当然流通コストはかかっているので、こんな無駄なことはやめた方がよいわけで、その手始めに書店は仕入れを絞るようになったと思われます。

出版社としても、みすみす戻ってくるのを承知で出すのは、巡り巡って自分の首を絞めることになりますから、確実売れる書店に確実売れる部数だけ出したいと考えます。ということで、ここまではよい方向性だと思いますし、それによって少なからぬ出版社、書店の利益率が改善したのではないかと思います。

ただ、こればっかりやっていくと業界が縮小していくばかりで、拡大させることが難しくなります。確かに10冊売るために100冊も並べるような効率の悪い売り方は淘汰されてしかるべきですが、10冊売れればいいところだと思いつつも、あえて100冊仕入れて頑張ってみたら60冊も売れた、ということだってあるはずです。こういう「頑張り」は書店だけの話ではなく出版社の側にも言えることですが、現状では安全策に走りすぎで、こういう「頑張り」は「裏付けのない冒険」としか思われません。

確かに、大量の返品、在庫の山を見ると、なんて無駄の多い業界なんだと思いますが、ちょっとしたきっかけで売れるようになる可能性だってなくはないわけですから、そういう反転攻勢ができるよな心づもりだけは失いたくないと思います。

しかし、今のところは、業界あげて安全策を採りにいっていますよね。書店にしろ出版社にしろ、会社が潰れてしまっては元も子もないわけですから。

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