閉店セール的な......
この年末年始の忘年会、新年会。仕事柄、いくつかの会に出席し、お偉い方々のスピーチと言いますか、演説と言いますか、あいさつを聞きました。
皆さん、もうじき一年を迎える東日本大震災に必ず触れますね。それはそれで至極もっともであり、あたしみたいにほとんど精神的な影響を受けていない薄情な人間の方が稀なわけですから触れることについては異存はありません。そもそも、この業界に限らず、テレビ・新聞で見聞きするほとんどの業界のお偉いさんのあいさつは震災に触れているわけですから。
ただ、出版業界について言えば、長引く出版不況の中で確かに全体としてみれば売り上げは落ち込んでしまってますが、そんな中、震災後の被災地の書店の売り上げは前年比で驚異的なプラスになっているそうです。あいさつに立つ人は、ほとんど例外なくそのことに触れ、「本の力、活字の力はまだまだ健在だ」と訴えています。
この不景気にあって、ますます暗くなるようなことを話すよりは、少しでも前向きになれることを話す方がよいのはわかっています。たとえどんなに不景気でも営業としては、空々しくならない程度に、「売れてますよ、結構調子いいですよ」と口だけは元気なことを言うべきだとも思います。
でも、ここまで聞かされると、ちょっと食傷気味です。
そう、本の宣伝にやたらと書店員のコメントが載っているこの数年来の宣伝手法と同じで、「もういい加減にしてよ」という気になります。
東北の本屋で本が売れたのは、みんな流されてしまったから改めて買わなければならないから当然と言えば当然のことです。いろいろな生活の不便のある中で本が比較的優先順位も高く選ばれたということは、確かに「本の力」と言えるのでしょう。でもパソコンとかゲームとかって、電気代やソフトや機械などが必要で、それだけでは使い物にならない、自己完結していないものですよね。それに比べ本は、とりあえずそれだけで存在できる、使い物になるものです。そして、高額の書籍もありますが、全体としてみれば安い商品です。すべてが流されてしまった被災地で、とりあえず本はそれだけで時間潰しになる、一時でも過酷な現実を忘れられるものだったから、それなりに売れたのだと思います。そして、それは確かに「本の力」なのでしょう。他の娯楽商品に比べたアドバンテージと言ってもいいかもしれません。ウンベルト・エーコも『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』の中で、そのような発言をしています。
ただ、こう言っては不謹慎ですが、こんな大震災が毎年のように地域を変えて起こるでしょうか? 昨年は東北だったから今年は九州、来年は関東、その次は中四国というように。
何が言いたいかと言いますと、いい加減、震災を持ち出して、被災地で本が売れたから、まだまだ本には未来があるんだ、的な話はやめましょうよ、ということです。
今回の被災地での売れ行き、まだ前年比プラスが続いている書店もあるみたいですが、あくまで震災特需ですよね。あたしに言わせれば、売り上げが落ちて営業を続けられなくなったデパートが閉店前の一ヶ月にセールを行なったら、開店以来最高の売り上げを記録したみたいなものです。「ここまでとは言わないけれど、こんな売り上げが続いていれば閉店しないで済んだのに......」というデパートの人の恨み節もしばしば聞かれるものです。でも、もう閉店しちゃうからこその売り上げであって、一時的な現象です。被災地の本屋の好調も、結局は一時的なものであって、書店の経営努力をはじめ、この業界の構造が劇的に変わらない限り、この震災ハイな状態が冷めれば、震災前の状況に戻ってしまうと思うのです。
だから、震災の話ばかりを聞かされると、「結局この業界は、震災にでも遭わないと景気は上向かないの?」と思ってしまうのです。数行前に「毎年のように地域を変えて震災は起こらないのか?」と書いたのはそういう意味です。
もちろん本を読むことによって、折れた心、くじけそうな気持ちを癒す、励ますという効果があるということは重々承知していますが......
皆さん、もうじき一年を迎える東日本大震災に必ず触れますね。それはそれで至極もっともであり、あたしみたいにほとんど精神的な影響を受けていない薄情な人間の方が稀なわけですから触れることについては異存はありません。そもそも、この業界に限らず、テレビ・新聞で見聞きするほとんどの業界のお偉いさんのあいさつは震災に触れているわけですから。
ただ、出版業界について言えば、長引く出版不況の中で確かに全体としてみれば売り上げは落ち込んでしまってますが、そんな中、震災後の被災地の書店の売り上げは前年比で驚異的なプラスになっているそうです。あいさつに立つ人は、ほとんど例外なくそのことに触れ、「本の力、活字の力はまだまだ健在だ」と訴えています。
この不景気にあって、ますます暗くなるようなことを話すよりは、少しでも前向きになれることを話す方がよいのはわかっています。たとえどんなに不景気でも営業としては、空々しくならない程度に、「売れてますよ、結構調子いいですよ」と口だけは元気なことを言うべきだとも思います。
でも、ここまで聞かされると、ちょっと食傷気味です。
そう、本の宣伝にやたらと書店員のコメントが載っているこの数年来の宣伝手法と同じで、「もういい加減にしてよ」という気になります。
東北の本屋で本が売れたのは、みんな流されてしまったから改めて買わなければならないから当然と言えば当然のことです。いろいろな生活の不便のある中で本が比較的優先順位も高く選ばれたということは、確かに「本の力」と言えるのでしょう。でもパソコンとかゲームとかって、電気代やソフトや機械などが必要で、それだけでは使い物にならない、自己完結していないものですよね。それに比べ本は、とりあえずそれだけで存在できる、使い物になるものです。そして、高額の書籍もありますが、全体としてみれば安い商品です。すべてが流されてしまった被災地で、とりあえず本はそれだけで時間潰しになる、一時でも過酷な現実を忘れられるものだったから、それなりに売れたのだと思います。そして、それは確かに「本の力」なのでしょう。他の娯楽商品に比べたアドバンテージと言ってもいいかもしれません。ウンベルト・エーコも『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』の中で、そのような発言をしています。
ただ、こう言っては不謹慎ですが、こんな大震災が毎年のように地域を変えて起こるでしょうか? 昨年は東北だったから今年は九州、来年は関東、その次は中四国というように。
何が言いたいかと言いますと、いい加減、震災を持ち出して、被災地で本が売れたから、まだまだ本には未来があるんだ、的な話はやめましょうよ、ということです。
今回の被災地での売れ行き、まだ前年比プラスが続いている書店もあるみたいですが、あくまで震災特需ですよね。あたしに言わせれば、売り上げが落ちて営業を続けられなくなったデパートが閉店前の一ヶ月にセールを行なったら、開店以来最高の売り上げを記録したみたいなものです。「ここまでとは言わないけれど、こんな売り上げが続いていれば閉店しないで済んだのに......」というデパートの人の恨み節もしばしば聞かれるものです。でも、もう閉店しちゃうからこその売り上げであって、一時的な現象です。被災地の本屋の好調も、結局は一時的なものであって、書店の経営努力をはじめ、この業界の構造が劇的に変わらない限り、この震災ハイな状態が冷めれば、震災前の状況に戻ってしまうと思うのです。
だから、震災の話ばかりを聞かされると、「結局この業界は、震災にでも遭わないと景気は上向かないの?」と思ってしまうのです。数行前に「毎年のように地域を変えて震災は起こらないのか?」と書いたのはそういう意味です。
もちろん本を読むことによって、折れた心、くじけそうな気持ちを癒す、励ますという効果があるということは重々承知していますが......
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