2012年1月 8日

幸福比べ[続き]

えー、長く書きすぎて、前のダイアリーは本題に行き着けませんでした(汗)。Uブックスを含めた四点の「幸福論」の読み比べが主題でした。それを忘れて書店・業界批判的なことを書いてしまいましたが、批判ではなく、あくまで建設的意見と受け取っていただければと思います。



まずは四点を並べてみます。さっさと読み比べの内容に行けよ、と思われる方も多いと思いますが、あたしはどちらかというと形から入る方なので......(汗)

三つの文庫は大きさ同じです。ミリ単位で微妙に異なるのかも知れませんが、ほぼ同じと言ってよい大きさです。Uブックスはさすがに新書サイズなのでやや大きめになっています。では、各書の中を見てみます。年も明けたことですので、「新年」という項のところを挙げますので、訳文の読み比べもしてみてください。まずは岩波文庫。(以下、画像をクリックすると拡大されます。)



いかにも岩波文庫という文字と組み方です。昔に比べればゆったり組んでいる感はありますが、文字は細めです。



次に角川ソフィア文庫です。岩波を見た後ですと、文字はかなり大きく見え、また太く感じます。また項目ごとに改ページをしていないのが角川版の特徴です。



続いては集英社版です。岩波文庫と同じように文字は小さめです。ただ岩波文庫とは書体(フォント)が異なります。好みにもよると思いますが、岩波文庫よりは太く感じます。



最後が白水社版です。やはり新書サイズなので文字は大きいです。角川版と同じくらいですが、新書サイズなのでむしろゆったり組まれています。あと大人の男性ですと、手の大きさの関係で、文庫版よりは持ちやすいと思われます。

以上が見た目の比較で、次に訳者についてです。

岩波は神谷幹夫氏、北星学園大学教授です。文庫の奥付などにはプロフィールは載っていません。岩波文庫版の刊行は1998年1月です。

角川は石川湧氏。1906年の生まれで、既に亡くなっておられます。昭和26年初版で、現行本には鎌田浩毅氏の解説が加えられています。

集英社版の訳者は白井健三郎氏。1917年生まれで、やはり既に故人となられています。鑑賞として清水徹氏の解説が付されています。初版は1993年ですが、旺文社から出たものを再版しているようで、ウィキペディアの記述では、そもそもは1961年に平凡社から出ていたもののようです。

白水社版の訳者は串田孫一中村雄二郎のお二人で、串田氏は既に故人です。初版は2008年ですが、単行本での刊行は1990年です。また辻邦生氏の解説があります。

こうしてみると、古めかしく感じる岩波文庫版が、翻訳として一番新しいことがわかります。それ以外のものは、幾星霜を重ねてきた、歴史あるものと言えます。

次に構成です。

岩波文庫版は実は目次がありません。口絵として『幸福論』の手稿(モール・ランブラン夫人への献辞の部分)を載せた後、モール・ランブラン夫人への献辞があり、いきなり本文です。項目(プロポ)ごとに改ページとなり、訳者の解説、そしてプロポ一覧という順序です。最後のプロポ一覧が目次を兼ねているようです。

角川ソフィア文庫版は目次があり、その後は本文です。プロポごとに改ページされ、その後は注釈、訳者解説、年譜、解説(鎌田氏)という流れです。

集英社文庫版は白黒の口絵が4ページ、アランの肖像やゆかりの地の写真で構成されています。その後は目次、本文、解説、鑑賞(清水氏)、年譜となっています。

白水Uブックス版は目次、本文、解説(辻氏)、訳者あとがき(中村氏)です。

興味のあるプロポから拾い読みをするには、岩波文庫は目次が巻末なのでやや不便です。アランの年譜は角川版と集英社版にのみ付いていますが、集英社版の方が詳しく、角川版はずいぶんあっさりとしたものです。

と、ここまででかなり長文になってしまったので、本文の読み比べはまた稿を改めさせていただきます(汗)。できれば解説についても比べてみたいと思っています。

なお、プロポですが、図版として上に挙げた「新年」は簡単な表題なのでほぼ同じですが、このプロポの翻訳にも微妙な差異があります。ざっと見ると、岩波版だけが異なることが多い感じがし、角川版と集英社版が一致していることが多いです。また白水社版は通し番号を振っておりません。

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