2011年12月 8日

センス

出版業界に限らず、どんな業界でも、仕事をしていく上で、能力とか努力とかアイデアとか意欲とか、必要とされるものがあります。どれもあたしには足りていないことは自覚していますが、その他にも昨今よく聞かれるのはセンスです。

あの人って仕事のセンスがあるよね。

という感じで使われるのだと思いますが、ここであえて「センス」と言って、「能力」と言わないのは何故なのか、よくよく考えてみるとどちらでも同じようなことを言ってそうなのに、違うような気もします。「ニュアンスが...」と言われれば「確かに」と答えてしまいそうです。

何と言うのでしょう、肩に力を入れなくても、自然とうまい具合にやれる能力・技能というところでしょうか。能力もセンスも持って生まれた部分がかなりの比重を占めそうですが、その一方、経験で補うことも十分できそうな面もあります。

で、出版社の営業としてのあたしのセンスは、と問われれば、自信ないです、と答えるしかありません。自分のところの出版物をよく読んでいるわけでもなければ、周辺知識が豊富なわけでもありません。もう営業で7年、8年になろうとしていますが、書店員さんが営業マンに対して求めるような経験も積んでいるとは思えません。

で、そんなあたしが書店員さんのセンスを云々する資格なんて無いはずなのですが、それでも疑問に思うことがあります。それは返品了解書を見たときです。

「返品了解書って何?」ということを書き出すと長くなるのでやめますが、簡単に言えば書店が「この本返品したいのですが、よいでしょうか?」と出版社に問い合わせる書面のことです。たいていはファクスで流れてきます。

そこには書名と冊数、返品理由が書いてあるわけで、注文がキャンセルになったというものが多いと思いますが、そうではなく「売れなかったから」という理由を書いてくる書店もあります。

ただ「売れなかった」と書かれると、こちらも「売るような努力したの?」と言いたくもなりますが、「いやいや、待てよ。この本はそれほど売れてなかったか......」と自責の念にとらわれることもあります(汗)。

ただ、あたしの勤務先の場合、新刊は書店からの指定に基づいて送品しているので、そもそもは「そちらが売れると思ったから指定したんでしょ」と思ったりもします。「まあ、見込み違いもあるよね」「新聞の書評に載りそうだと思ったけど載らなかったから...」ということもあると思います。

何が売れて、何が売れないかは出してみないとわからないので、こういった書店さんの言い分も理解できなくはありません。ただあたしが一番不思議に思うのは、書評も出て注文も結構来ている本を返品させてくださいと言ってくる書店です。あるいは、最近出た新刊と同じ著者や訳者、内容的に近い既刊本を返品しようとする書店です。

まず前者ですが、確かに売れていると言っても全国津津浦々、どの書店でも売れるわけではありませんから、「よそは知りませんけど、うちでは売れないので」という理屈はわかります。でも新聞に限らず世間でそこそこ話題になっているのに、そういう流れに乗って店頭の本を売ろうとしないのはセンスを疑われても仕方ないのではないかと思います。こちらも、そういう場合には「某某新聞の書評の影響でよく売れていますので、もうしばらく置いてみてください」という返事をしたりしますが、書評などはネットの噂と違って目につきやすいわけですから、もう少し目配りして欲しいと思います。

後者の場合、確かに新刊が出たからと言って既刊も売れる著者は数えるほどです。関連の本を並べてもお客さんがどこまで関心を持ってくれるかわかりません。あの村上春樹ですら新刊しか売れず、回りに並べておいた既刊書までは売れないと嘆いている書店さんがあるくらいですから。

でも、そういう努力をしないとこの業界はどんどん先細りしてしまうのではないでしょうか? 出版社や書店員発の押しつけがましいオススメは要らないにしろ、新刊だけでなくこういう本もありますよとサジェスチョンするのは本屋の醍醐味ではないかと思うのです。

あたしも書店に行って、なんでこの本とこの本を隣同士に並べているのだろうと考えさせられることがしばしばあります。お店の人に種明かしされ、「なるほど」と思うと、他のお店で話題に出したりします。そうすると、また別な角度からの意見も聞けて楽しくなりますし、「そんな本が出ていたのか、知らなかった」と思うことがしょっちゅうです。

どのお客さんもそういう目で本屋に来ているわけではないと思いますが、そういう興味で来ている人もいるはずです。だからなのか、そういう試みを、手を変え品を変えやっている書店はやはりこの不景気でも売り上げをそれほど落としていませんし、渋い本でも確実に売ってます。

しかし、こう書いていて思うのは、そういうセンスって、やはり書店現場だと目の肥えたお客さんによって鍛えられるのでしょうし、そういうセンスを持った書店員さんと接することで出版社の営業も鍛えられるのではないかということです。

自分にセンスがないと嘆く前に、自分は書店員さんとそういうセンスの磨き合いができているか、まずはそこを反省しないとならないのでしょう。

でも、日々届く返品了解書のファクスは......



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