2011年10月23日

売れてる本

しばしば取り上げてもらっているのに、こういうことを言っては出版社の人間として申し訳ないですが、朝日新聞読書欄の「売れてる本」のコーナーは必要なのでしょうか?

朝日新聞書評欄と言えば、書店業界では「載れば注文殺到」と言われる(←ちょっと言い過ぎ?)ほどの影響力を持ったコーナーです。営業力に乏しい中小出版社にとっては載るか載らないかは売り上げに直結する大問題です。

そんなコーナーで、既に十二分に売れている本を改めて取り上げる意味がわかりません。業界の常識を覆すような仕掛け、取り組み、きっかけがあって、それまで全く日の目を見なかった本がヒットしたというのであれば、そのノウハウを紹介するという意味で面白いかも知れません。

でも、あの欄にそういう感じはあまりなく、ましてや毎週載せる意味があるのか、と思わずにはいられません。結局、一極集中を煽っているだけではないかという気がします。

昨今は、本屋大賞ですら、一位以外の本は見向きもされない、既に十分売れた本をさらに表彰して売ってどうする、という意見もありますが、どの業界でも一極集中が極端に進んでいる気がします。少しでもそういう傾向の是正を図る方が、社会の広がりというか、多様性にはプラスになると思うのですが・・・・・・

ところで、その書評欄、読書欄で思い出しましたが、最近の書店って、店頭近くなどに「今週、書評に載った本」というコーナーが設けられているところが増えてますよね。あれって、どうなのでしょう?

あたしは出版社の人間ですから、紀伊国屋とかジュンクのような大きな書店に行っても、書評に載っていた本がどのコーナーに置いてあるか、だいたいの見当が付きます。でも、そこまで本屋に詳しくない人の場合、あとあまり時間のない忙しい人の場合、書評だけを読んで本屋に行っても、置いてある場所を探すのは一苦労でしょう。だったら、書評コーナーを設けて、「ジャンルを問わず、書評に載った本はここに置いてあります!」とした方が、お客さんにとっては便利でしょう。

でも、本屋の楽しさって、読もうと思っていた本や探していた本を買うだけではなく、その本の周りに置いてある本を手に取って、「あっ、こんな本もあったんだ」と気づかせてくれるところにあるのではないでしょうか? もちろん、目的の本などなく、無目的的に本棚をぶらぶら眺めるだけでも、ふと目に留まる本はあるはずです。

いずれにせよ、そういうのが楽しいはずなのに、書評コーナーへ直行して、目的の本だけを手に取ってレジに並んで店を後にするなんて、ちょっとどころか、かなりもったいない気がします。

でも、いまあたしはすぐ前で「そういうのが楽しいはず」と書きましたが、現代の人って、そういうことを楽しいと思わないのかも知れませんね。そういうのを面白いと思っているのはこの業界の人間だけの勝手な思い込みなのかも知れません。

時間もなければ不景気で金もない現代人にとって、最低限必要なもの以外にお金や時間を使うことは無駄以外の何ものでもないのかもしれません。そういう意味では、わかりやすい位置に書評コーナーを設置してパッと買えた方がどんなに便利かわかりません。書評でなくとも、検索機を使って探している本の棚番号を調べ、それだけを買って帰るのが主流になっているのでしょうか?

そう言えば、かつて村上春樹の『1Q84』が発売されたとき、書店によってはその周りに村上春樹の他の著作を並べて「春樹コーナー」を作ったところが数多くありました。その何軒かで話を聞いたところ、確かに他の本も売れたお店もあったようですが、『1Q84』以外には目もくれず、ほとんど売れなかったという書店もかなりあったようです。

これでは書店員がなんのために棚を作り込んでいるのかわかりませんね。

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