2011年10月15日

別バージョンの可能性

まだ刊行になって日が浅いですが、『14歳のアウシュヴィッツ』という本があります。サブタイトルが「収容所を生き延びた少女の手記」とあるように、著者のアナ・ノヴァクは第二次世界大戦中、ナチによって強制収容所へ連行され、そこでノートに必至で日記を綴っていたのです。

このように書くと、「じゃあ、アンネの日記の二番煎じ?」と思われるかも知れません。確かに日本での知名度から考えれば、二番煎じという言い方は当たっているかも知れません。ただ、アンネは収容所で亡くなっています。殺されたという言い方の方が正しいのかも知れません。それに対して、アナは収容所を生き延びています。つい先年まで存命でした。彼女が日本についてどの程度の理解や感情を抱いていたのかはわかりませんが、日本語版の刊行を目にせず亡くなられたということは、日本人として残念に思います。

さて、「アンネの日記」との対比というか、違いについて白水社のウェブサイトでは次のように書かれています。
 一九四四年六月、十四歳の少女アナはアウシュヴィッツ強制収容所に連行される。幼い頃から作家になりたかった彼女は、日々収容所で目にする出来事を、監視員たちの目を盗み、ノートや紙の切れ端にひたすら書きとめていく。個性的な他の囚人たちのこと、粗末なスープのこと、石切場での労働のことなどを。過酷な状況で正気を保ち、自分自身でありつづけるために......。懸命の努力や偶然の力によって、アナは死の選別を逃れ生還を果たす。本書は、奇跡的に持ち返られた貴重なノートを元に、後年、著者が発表した手記である。
 収容所に連行されるまでが綴られた『アンネの日記』に対し、こちらは連行されてから、アウシュヴィッツを始め次々と送られた収容所での生活が、生々しく記録されている。
 著者アナ・ノヴァクは一九二九年ルーマニアで生まれた。十一歳のとき、生まれ故郷がハンガリーに併合され、ハンガリー国籍となる。戦後は、ブカレストで劇作家として活躍し、五七年には国家賞も受賞するが、チャウシェスク政権を批判したとして発禁処分を受け、西ベルリンに脱出。その後パリに渡った。仏訳が出るとボーヴォワールやサルトルに絶賛され、「ルーマニアのアンネ・フランク」として知られるようになる。二〇一〇年パリ没。
つまり、収容所へ逸連れて行かれるかという恐怖におびえながら書かれたのがアンネの日記であり、連れて行かれた先の収容所がどんなところであったのかを書いたのが本書というわけです。看守の目を盗んで書かれた記録ですから、見つかれば取り上げられたでしょうし、彼女も命を落としていた可能性が高いと思います。この記録が残ったというのも、彼女が生きながらえたことと同じように奇跡と言えると思います。

ところで、『アンネの日記』って本屋さんに行くとどこに置かれていますか?



単行本は知りませんが、現在では文庫本や絵本の印象しかありません。最初に刊行された頃はどこに置かれていたのでしょうか? 歴史のコーナー、それとも文芸書コーナーでしょうか? 現在は児童書コーナーに置かれていることも多いのではないかと思います。

今回の『14歳のアウシュヴィッツ』もタイトルからわかるとおり、本来書かれたのは著者が収容所に入れられていた頃、つまりタイトルどおり彼女が14歳の頃です。ですから、オリジナルの記録は子供の文章です。だからこその読みにくさもあるでしょうけど、大人が推敲した技巧的な文章ではありません。ただし、分量が多いためかなりのボリュームになってしまい、価格も本体2600円と若干高めです。そして、ハードカバーの本なので世界史のコーナーに並んでいる書店がほとんどです。

例えば、権利関係がどうなるのかわかりませんが、この本を子供向けにリライトしたらどうなのでしょう? アンネの日記だって、かなりリライトされて読みやすくなっているものがありますよね? そんなバージョンを出したらどうかなと個人的には思います。この分量、この値段、子供が買う(買ってもらう)にはちょっとキツイです。読むのも大変でしょう。だから、YA作家の方に子供向けのリライト版を刊行できないかな、と思うのです。もちろん、元出版社からそういうバージョンが刊行されていれば、それの翻訳出版をすればよいのでしょうけど、恐らく出ていないでしょうから、日本独自でそういうものを刊行して、より若い世代に読んでもらえるようにするというのは可能性があるのではないかと思います。

ちなみに、著者は「ノートや紙の切れ端、トイレットペーパーなどにひたすら書きとめ」ていたそうです。一時期日本で流行っていた「トイレットペーパー型書籍」でも出したら話題になるでしょうか? ただし、実際にはトイレットペーパーはちぎれやすくて書くのに適さなかったようです。(昔のトイレットペーパーってもっと丈夫な厚手の紙ではなかったのでしょうか、と思いますが・・・・・・)


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