2011年9月22日

実売率? 返品率? POS?

そういう数字を何と呼ぶのかわかりません。たぶん実売率でいいのかと思うのですが、最近またそんなことを考えています。ちょうど一年ほど前にも書いたんですけどね。

その記事では「実売率」という言い方で通しましたが、なんとなくしっくりこないんです。わかりやすくというか、あたしの感覚にフィットした言葉で表現するなら「本を一冊売るのに、その書店では何冊必要とするか?」ということです。

それって、つまり実売率のことじゃないの(?)と言われると、その通りなのですが、パーセンテージにしてしまうと見えにくくなるものがありませんか? そういう気がします。

一年前の記事にも書いたのですが、ある新刊の書籍、A書店では入荷が3冊で2冊売れた、B書店では5冊入荷して3冊売れた、C書店では10冊入荷して5冊売れたと仮定します。実売率で言うと、順に67%、60%、50%です。冊数で考えると一番売ってくれたのはC書店ですが、実売率という物差しで成績評価すると一番悪い書店になってしまいます。

上の喩えは書店の大きさを省いていますが、比較的実情に合ったたとえ話だと思います。郊外の私鉄沿線の駅前商店街にあるような比較的小さな書店だと2、3冊、急行の停まる駅にある、もうちょっと大きな本屋だと5冊、都心の方の書店に行けば10冊入荷するなんて、一昔前であればごくごく一般的、平均的な本屋の姿だったと思います。

ところが、1000坪超の大型書店が増えたこの十年くらい、配本の差はこんなものではなくなりました。よく読者の方からも文句を言われますが、「東京の本屋にはいっぱいあるのかも知れないけど、うちの近所の本屋さんには一冊も置いてないんだよ!」という状況です。1000坪を越える書店には100冊単位で山積み、それこそ本当に山のように積んであるのに、地方の小さい書店ではたった一冊の客注にも応えられない、という現実です。

出版社にとっても書店にとっても、売れるだろうという予想はしても、実際のところ売れるかどうかわからないのに積んでいる本より、お客さんが実際に「この本ください」と言ってくれる本の方が確実に売り上げになるわけですから、本来ならありがたいのに、現実にはそういう読者の方を向いていないんですよね。

話は先のたとえ話に戻りますが、A書店は3冊の入荷で2冊売れた、B書店は5冊入荷して3冊売れたと書きましたが、もしB書店の売り上げも2冊だったとしましょう。ここで出版社として考えるのは、以下の二つの考え方です。

その一、A書店は最初の入荷が5冊になれば3冊か4冊は売れるのではないか、というもの。その二、B書店は2冊しか売れないんだから初回の入荷は3冊で十分じゃないか、というもの。この二つです。

これは統計的にはその通りなのかもしれませんが、現実にもその通りになるとは限りません。A書店はどう頑張っても2冊売るのがせいぜいの書店なのかもしれません。書評に出たりテレビで話題になったりしない限り、顧客が増えるとは思えません。そうなると、初回の入荷が5冊になると売れ残る本が増えるだけ、つまり返品が増えるだけという結果になります。

またB書店も、5冊の入荷があったから2冊売れていたのに、これが3冊の入荷になったら1冊しか売れない、下手すると一冊も売れなくなる可能性があります。本って意外とそういうところがあります。不思議です。

もちろん、どちらのケースもそうはならず、最初の予想どおりの結果になる場合もあるでしょう。でも、そうはならないケースの方が多いのではないかという気がするのです。それがつまり、一冊の本を売るのに、その書店では何冊の本を必要とするのかということです。

昨今、業界を挙げて返品を減らそうと躍起になっていますから、入荷数(配本数)を調整するのは当然のことなのですが、こういう現実があるので、一律にやってしまえないわけなのです。田の業界はもっとシビアなのでしょうか?

それに、大きな本屋の入り口付近にドーンと積んであったら、なんとなく「この本、売れているんだ」という気にさせられますよね。そういう効果も期待して、大型店への過剰な配本がやまないのでしょう。

たぶん、こういう悩みって、POSデータが揃うようになったからこそ出てきた、今日的問題ですよね。かつては実際にどこの本屋で何冊売れているかなんて、送られてきたスリップをちまちま数えない限り、ほとんどわからなかったわけですから。

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