2011年9月 4日

一人っ子政策

莫言『蛙鳴』読了。

 

中国現代文学に慣れていない人、あるいは中国史などにさほど関心のない方は、この作品を楽しめたのでしょうか? もちろん、楽しめるような内容の作品ではありませんが、いわゆる文学作品として堪能できたのかということです。

それなりに評判になっているようですが、文学作品として楽しめたのかと言われると、この作品が莫言自身の体験をベースにしているためルポルタージュを読んでいるような錯覚さえ覚え、文学作品なんだという気がしません。

かといってルポルタージュとしては、描かれた内容の背景がほとんど説明されていませんから、当時の中国農村の原状、中国が置かれた現実、そして中国社会特有のしがらみなどを抜きに、この作品の重たい空気が伝わるのだろうかという気もします。

海外文学を読むとき、人によって判断や評価は異なるでしょうけど、その国の社会や歴史を踏まえていないと作品を理解できないというのはどうなんでしょう、という気がします。もちろん、その国のことを知っているからこそより楽しめる、より味わえるという事実を否定するつもりはありません。でも、そこを踏まえていないと作品の面白さが半減してしまうというのは、なかなか外国で受け入れられるのかという切実な問題を抱えているような気がします。



で、あたしとしてはこの作品を楽しめました。前半から中盤はちょっとダラダラとしていて、もう少し刈り込めるのではないかと思います。却って後半からエンディングにかけての方が、代理母という問題を扱っているだけに、中国社会の現実などを離れ、日本人でも共感できたのではないでしょうか?

そもそもこの作品が作品自身の中味よりも、「一人っ子政策を正面から扱った作品である」という点で論評されていることに(先日の朝日新聞のインタビュー記事など)、文学作品として評価されているのか、という思いを抱いてしまいます。

中国学を専攻した人間として、どんな形でもいいから中国文学にスポットが当たるのは嬉しいですが、もっと欧米の作品と同じような目線、論調で評価される時が来てくれることを願っています。それは80後、90後の作品を論評するときに「中国でもこういう作品が作られるようになったんだ」ということだけで評価されるのを乗り越えることと同じではないでしょうか。

ちなみに、作者の故郷でもあり、作品の舞台となったのは下図のあたりです。


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山東省ですから、日本人にもそれなりに馴染みがあるでしょうか? 青島ビール、山東出兵、泰山、孔子の故郷、水滸伝などなど。

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