2011年8月27日

この世でもっとも難しい、三つの単語

灯台守の話』読了。

情けない話ながら、単行本で出たときには読んでいなくて、今回のUブックス化で初めて読みました。

それにしても、主人公のシルバーは孤独ですね。両親がいない孤児という意味で孤独なだけではなく、他人と繋がりを作れないという意味でも孤独です。ストーリーの中で何人かの人との関わりは生まれますが、結局は何の繋がり、精神的紐帯を結べずに生きている、生きて行かざるを得ない、そんな風に思えます。唯一の例外的な存在として彼女を引き取るピューがいますが、あたしが読む限り、結局シルバーはこのピューとも本当に打ち解け合ってはいないという気がします。

かといって、シルバーは誰かとの繋がりを求めてもがき苦しんでいるような風でもありません。そのように生まれてきてしまっているので、人との繋がりというのを知らないのではないか、という気がします。だからシルバー自身が孤独や寂しさを感じていたのだろうか、という気がしますし、それを感じずに生きられたのであれば幸せだったのかも知れないと思います。

でも、だからこそ読んでいるこちらは絶望的な孤独を感じてしまうわけで、そこが本書の最大の魅力だと思います。きっと、友達がたくさんいる人、何もしなくても周りに人が集まるようなタイプの人には、本書の面白さは理解できないのではないでしょうか。そして、読んでも面白くないのではないでしょうか。

「もしこの世界でやっていけないなら、自分で自分の世界を作ってしまうことよ」(P.13)、「人間、何があっても愛する相手を疑っちゃならん」「自分が相手に真実でいること」(ともにP.99)、「人生とはすなわち損失と危険だ」(P.132)、こんなセリフが孤独な心にさらに塩を塗り込むかのようにしみます。

ところで、本書のカバーにも使われているタツノオトシゴが、要所要所で出てきますが、あたしは幼いころ、このカバーのタツノオトシゴと全く同じに見えるタツノオトシゴのキーホルダーを持っていました。父からもらったもので、父がどうしてそんなものを買ったのか、どこで買ったのかも知れません。ちょうど頭のてっぺんの部分から鎖が出ているキーホルダーで、あれは作り物だったのか、タツノオトシゴの剥製だったのか、とっくの昔にどこかへ行ってしまったので記憶が定かではありません。

ただ、かなりリアルで、子供が持つにはグロテスクなキーホルダーだったという印象は残っています。本書を読んでいてタツノオトシゴが出てきたときに、あたしは本書との運命的なものを感じました。もちろん、このシルバーの孤独とのシンパシィも含めて。

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