それでも文庫化
前々回のダイアリーの補足です。
でも、その前に前回のタイトル「この世でもっとも難しい、三つの単語」について。
これは『灯台守の話』を読んだ方なら覚えていらっしゃると思いますが、「あいしてる=I Love You」という三つの単語のことです。
では、閑話休題。
採算がとれない、本をいつでも手に入るように残しておく、在庫ありの状態にしておくには文庫よりも単行本の方が割に合うはずだと書きました。これはほぼ間違いのないことですが、それでも出版社は競うようにして文庫化しています。何故かと言えば、それは配本できるからです。
配本、すなわち出来上がった本を書店に出荷することです。本は委託販売だからいつでも返品できるというのは新刊として配本されてから3か月くらいまでのことで、それを過ぎると原則的には返品できなくなります。また3か月の間でも書店がみずから発注して取り寄せた場合も返品は不可です。これが基本原則です。
ここに出版業界の宿痾でもあり、優れた知恵でもある再販制の面白いところがあります。書店としては返品できるわけでから頼んでいない本が入荷しても「期限内に返品すればいいや」となりますし、出版社としても「要らなければ返して寄越すだろう」という気持ちで出荷してしまいがちです。
いずれにせよ、こんなことができるのも新刊であればこそです。新刊以外ではこういうことはできません(例外はありますが、それを言い出すと収拾が付かなくなるのでやめます)。
出版して一年たったころ、お陰様で初版はいい具合に消化できて、そろそろ在庫が少なくなってきたから重版した方がいいかな、という時に、いまの需要を予測するととても1000部は刷れないなあ、500部もあればじゅうぶんだよなあという状況だったとします。つまり採算を考えると、500部も作りすぎてしまうのです。これが新刊であれば、1000部作って、とりあえず700部くらい配本しちゃえ、というやり方もできますが、いま書いたように重版ではそれができません。
では、これを新刊として配本できるようにするにはどうすればよいか? そうです。新刊にしてしまえばいいのです。どうやって新刊にするか? まず一番手っ取り早いのは新装版として出すことです。専門書のように文庫化に向かないもの、学術的価値がそれなりにあるけれどしばらく品切れになっていたものはしばしばこの形で復活します。
次の方法としては文庫化があります。ただ単に文庫化しただけでは、さすがに出版社も良心が咎めるのか、文庫化に際して一章書き下ろしの原稿が追加、といったおまけが付くこともあります。とにかく、いずれにせよ、重版ではなく、前のとは別の本ですという体裁をとって出すわけです。
上で、重版なら1000部くらいか、いや需要予測をすれば500部がいいところか、という例を挙げましたが、これが新刊なら再販制なのでもう少し多く配本することができます。(いや、冷静に考えれば、どんな風に形態を変えようと需要が大きく変わることはないのですが、配本できる部数と需要とは別ものですので・・・・・・)
ここで出版社にとって肝心なのはそれなりの部数を配本できるということです。5000部作って4000部配本したとします。2000円の本なら800万円です。(実際には定価よりも安く卸しますから500から600万円くらいでしょうか)
3か月の間に返品がどれだけ戻ってくるかは配本してみないとわかりませんが、とにかく出版としては出荷することでそれだけの売り上げを計上できるのです。もし4000部出荷しても2000部も返品で戻ってきたら、5000部作った制作費にすら届かない売り上げに終わるでしょう。それでも、とりあえずは4000部を出荷してその金額を売り上げとして計上することを優先しているのが、昨今の出版社の実情です。新刊が多くなるのもこのためです。とにかく新しいものを作って出荷すれば、返品はどうあれ、目先の売上金額は計上できますから。
電子書籍は、その形態がどうのこうの、課金や権利はどうなるのか、といろいろ議論されてますが、こういったこれまでの出版業界の商慣行に風穴を開けることにもなるのだろうなあと思います。少なくとも一方で新しいやり方、商慣行が生まれて動き出したら、これまでの方法論にも修正が求められることになるでしょうね。
でも、その前に前回のタイトル「この世でもっとも難しい、三つの単語」について。
これは『灯台守の話』を読んだ方なら覚えていらっしゃると思いますが、「あいしてる=I Love You」という三つの単語のことです。
では、閑話休題。
採算がとれない、本をいつでも手に入るように残しておく、在庫ありの状態にしておくには文庫よりも単行本の方が割に合うはずだと書きました。これはほぼ間違いのないことですが、それでも出版社は競うようにして文庫化しています。何故かと言えば、それは配本できるからです。
配本、すなわち出来上がった本を書店に出荷することです。本は委託販売だからいつでも返品できるというのは新刊として配本されてから3か月くらいまでのことで、それを過ぎると原則的には返品できなくなります。また3か月の間でも書店がみずから発注して取り寄せた場合も返品は不可です。これが基本原則です。
ここに出版業界の宿痾でもあり、優れた知恵でもある再販制の面白いところがあります。書店としては返品できるわけでから頼んでいない本が入荷しても「期限内に返品すればいいや」となりますし、出版社としても「要らなければ返して寄越すだろう」という気持ちで出荷してしまいがちです。
いずれにせよ、こんなことができるのも新刊であればこそです。新刊以外ではこういうことはできません(例外はありますが、それを言い出すと収拾が付かなくなるのでやめます)。
出版して一年たったころ、お陰様で初版はいい具合に消化できて、そろそろ在庫が少なくなってきたから重版した方がいいかな、という時に、いまの需要を予測するととても1000部は刷れないなあ、500部もあればじゅうぶんだよなあという状況だったとします。つまり採算を考えると、500部も作りすぎてしまうのです。これが新刊であれば、1000部作って、とりあえず700部くらい配本しちゃえ、というやり方もできますが、いま書いたように重版ではそれができません。
では、これを新刊として配本できるようにするにはどうすればよいか? そうです。新刊にしてしまえばいいのです。どうやって新刊にするか? まず一番手っ取り早いのは新装版として出すことです。専門書のように文庫化に向かないもの、学術的価値がそれなりにあるけれどしばらく品切れになっていたものはしばしばこの形で復活します。
次の方法としては文庫化があります。ただ単に文庫化しただけでは、さすがに出版社も良心が咎めるのか、文庫化に際して一章書き下ろしの原稿が追加、といったおまけが付くこともあります。とにかく、いずれにせよ、重版ではなく、前のとは別の本ですという体裁をとって出すわけです。
上で、重版なら1000部くらいか、いや需要予測をすれば500部がいいところか、という例を挙げましたが、これが新刊なら再販制なのでもう少し多く配本することができます。(いや、冷静に考えれば、どんな風に形態を変えようと需要が大きく変わることはないのですが、配本できる部数と需要とは別ものですので・・・・・・)
ここで出版社にとって肝心なのはそれなりの部数を配本できるということです。5000部作って4000部配本したとします。2000円の本なら800万円です。(実際には定価よりも安く卸しますから500から600万円くらいでしょうか)
3か月の間に返品がどれだけ戻ってくるかは配本してみないとわかりませんが、とにかく出版としては出荷することでそれだけの売り上げを計上できるのです。もし4000部出荷しても2000部も返品で戻ってきたら、5000部作った制作費にすら届かない売り上げに終わるでしょう。それでも、とりあえずは4000部を出荷してその金額を売り上げとして計上することを優先しているのが、昨今の出版社の実情です。新刊が多くなるのもこのためです。とにかく新しいものを作って出荷すれば、返品はどうあれ、目先の売上金額は計上できますから。
電子書籍は、その形態がどうのこうの、課金や権利はどうなるのか、といろいろ議論されてますが、こういったこれまでの出版業界の商慣行に風穴を開けることにもなるのだろうなあと思います。少なくとも一方で新しいやり方、商慣行が生まれて動き出したら、これまでの方法論にも修正が求められることになるでしょうね。
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