2011年8月 4日

上りと下り

著者から出版社、そして取次、書店と来て、最期は読者。この書物の流れを川に喩え、業界の通例では、著者・出版社を上流と呼び、書店・読者を下流と呼びます。

でも、本来出版だってサービス業、読者はお客様ですから、お客様の方が上流なのではないか、そう思います。確かに著者・作家の方を「先生」などと呼んで崇めているところがありますが、政治家と一緒で、「先生」と呼ばれてふんぞり返っている人ほど、人格的には問題があるのだと感じます。

それはともかく、やはり作品を作り出す著者を上流と呼ぶのはまだ許せるとして、読者を下流に当てはめるのには、やはりちょっと抵抗があります。

でも、もしかすると、上流が「優等」、下流が「劣等」というのこそ、あたしの勝手な思い込みなのかも知れません。下流のその先は生命の母である大海ですから。

で、閑話休題。

とりあえず慣例に従って出版社から書店への書籍の流れを下り、逆に書店から出版社への流れ、つまり返品を上りと呼んでおきます。

出版業界のネックはいろいろありますが、ひところ「注文した本がなかなか届かない」という問題がありました。他の業界ではすぐに届く、アマゾンだって一両日で届く、それなのに本屋はなんだ、というのが主な意見です。アマゾンだって在庫のないものは結構時間がかかるのですけど、「アマゾンは早い」という先入観がすり込まれてしまっているのでしょう。

しかし、この店頭にない本を注文した時にお店に入荷するまでの流通は、この数年かなり改善したと思います。やはり東京が中心になってしまいますが、都内の書店であれば、月曜日に注文した本が木曜や金曜に入荷することも珍しくなくなりました。これは相当な進歩ではないでしょうか? もちろん、まだまだトラブルや「着いてません」という問い合わせやクレームはしばしば来ますが、昔比べるとずいぶんとよくなりました。だからこそ、たまに遅くなるとクレームが来るのでしょう。

その一方、書店を回っていて感じるのは、書店から出版社への返品、つまり上り方向の流通が、ほとんど改善されていないのではないかということです。出版社としては、書店が注文して仕入れた本は責任を持って売って欲しい、返品なんてもってのほか、というのが本音ではあります。

しかし、お客様の注文だけを取り扱っていれば済むわけではないですから、売れるかどうかわからない本も仕入れておかなければならないのも書店の宿命、ですから一定量の返品が出てしまうのは理解しております。

しかし、この返品。書店としては売れなかった本を返すわけですから、(本を返すことによって仕入れたお金が戻ってくるというメリットはあるものの)建設的な作業ではありません。売れると思って仕入れた本が売れなかった場合、それを返品せざるを得ない書店員さんの気持ちも理解できます。

だったら、なおのことスムーズに作業をこなしたいと思うもの。

それがどうも取次の体制が「下り」中心に整備されてきた割を食っているのか、「上り」についてはスムーズではないようです。別に返品された本が出版社まで戻ってこないのではありません。書店と取次の間を行ったり来たりしていることが多々あるようなのです。

この作業、それでなくても新刊が毎日山のように入ってきて忙しい書店員さんにとっては、「やってられない」作業のようです。しかし、やらなければますますたまってしまう、だから仕方なくやる。でも、なんかのトラブルでまた戻ってくる。

そんなイタチごっこです。どうして戻ってきてしまうのか、そこに合理的な理由や法則性があるわけではないようです。それこそお役所的な、ちょっとした書類の不備だったりすることもあるようです。

再販制や委託販売の弊害よりもなによりも、流通の改革がこの業界の最急務と言われて久しいですが、やはり実際に書店員さんと話しているとそう感じます。

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