2011年5月30日

官製ではなく官制

集英社新書『モノ言う中国人』読了。

こういった中国モノ、いま現在の中国を題材とした本って、「まえがき」とか「あとがき」で、ほとんどの著者が、最近の中国本は盲目的に中国を賛美したり、あるいは逆に中国を悲観的描いたりと両極端で、どちらも真実の中国を描き切れていない、と書いています。そして、そういう著者なりの不満を解消し、真実の中国を日本人に知らしめようという思いから書かれたものがほとんどで、本書もその一つです。

しかし、これだけよくもまあいろいろな人が、お互いに中国の真実の姿をとらえていないと言い合えるものですね。不思議です。逆に言えば、これだけ本が出ているのに、日本人一般にはあまり伝わっていないということなのでしょうか? だとしたら、その原因はどこにあるのでしょう? これだけ次から次へと、実のところ内容的には大差のない中国モノが出版されているのに、日本人の中国認識があまり変わらない原因を分析した本の方が必要かも知れません。

さてさて、本書です。

著者は中国で大使館勤務だったようです。本書では知識人や知的エリートではなく、もっとごくフツーの中国人がインターネットという武器を手にすることによって、政治や社会のあり方に口を挟むようになってきた、意見表明するようになってきたということを紹介しています。ネットに表われた状況の分析としてはそれでよいのかも知れませんが、本書を読んでいる限り、著者が、そのフツーの中国人の中に分け入ってインタビューしたり、取材をしているような感じは受けません。もちろんネットの匿名性がありますから、本当に書き込んだ人に逢えるとは限りませんが、それでも、もう少し取材、足で稼いだものが欲しかったです。

さて、本書を読みながら感じたのは、著者が書いているように反日デモに代表されるような中国民衆の示威行動が「官製」ではない、ということに関してはあたしも賛成ですし、そう思います。ただ、政府や党中央などがやらせているのではないけれど、必要なところはしっかりコントロールしているという意味で「官制」だとは思っています。そして、そのコントロールできている部分が徐々に少なくなっている、なかなか言うことをきかなくなっている、とも思っています。

国有企業と国営企業の違いではないですが、例えば中国のデモ一つとっても、日本で「上がやらせているんだ」と言ったときに、それが「官製」というニュアンスなのか、「官制」という意味なのか、新聞や週刊誌も神経を使って書いて欲しいものだと思います。

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