2011年5月18日

印象が変わる!

蒋介石と聞くと日本人はどういうイメージを持つでしょうか? 毛沢東率いる共産党に破れ、這々の体で台湾に逃げ込んだ愚将でしょうか? あるいは宋一族と結託して人民の利益を吸い上げ、腐敗しまくった国民党の象徴でしょうか?

たぶん、そんなところが多くの日本人の蒋介石評ではないでしょうか? 孫文の理想を踏みにじったと言ってしまえば身も蓋もありませんが、軍事力でも装備でもはるかに劣る共産党軍にあっという間に敗れ、中国大陸を追われるなんて、相当低級な人間でない限りあり得ないと思ってしまうのもわけないと思います。

そんな多くの日本人の蒋介石像を、覆してくれそうなのがPHP新書の『蔣介石が愛した日本』です。史実をかなり好意的に解釈しているんじゃないかと思いたくなるほど、著者の蒋介石に対する思い入れは熱いです。本書を読むと蒋介石は情勢を客観的に、冷静に、そして正確に読み解く力を備えた一流の人物として描かれています。対する毛沢東、周恩来の描かれ方が物足りないのは本書の性格上やむを得ないでしょうが、周恩来と蒋介石がお互いを認め合っていたとは、ちょっと意外な指摘ではないでしょうか?

逆に、本書を読むと宋美齢をはじめとした宋一族の醜悪さが目に付きますが、そのあたりは岩波現代文庫の『宋家王朝(上)』『宋家王朝(下)』を併読すると面白いと思います。たぶん、本書とは好対照な描かれ方をしている蒋介石が見られるはずです。

それにしても、これほど揺り幅の大きな蒋介石。つまるところ、歴史に名を残す人というのは、清濁合わせのむようなところがないとダメなんですね。そして一方から見れば悪魔の化身のような極悪非道ぶりを見せ、また一方ではこれほど優れた人物はいないと思わせるような魅力を備えている、それが偉人なのでしょう。

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