2011年5月17日

書店の声

文春新書『出版大崩壊』読了。今朝の朝日新聞に著者の山田さんのインタビュー記事が載っていましたね。なんというタイミングだろうと、ちょっと思いました。

それはそうと、あたし自身は同書の内容にかなりの共感を覚えます。特に、ある程度の質が保証されたものだとか、作者が汗水垂らしてとは言わなくとも、情熱と手間暇をかけて作り上げた作品にはそれ相応の対価が必要なはず、という主張には共感できます。

でも、これ、端的に言ってしまうと、テレビが(電気代とか、テレビ自体の値段は別とすれば)ただじゃないですか。NHKの受信料を払っていない人も多いと思います。ですから、テレビ・ラジオの情報、それとそこから得られる感動とか愉しみ、喜びって基本的にタダなんですよね。その裏には相当なお金がかかっているのだけれど、それはテレビ業界の場合、スポンサーの広告収入というビジネスモデルが成立していて(昨今は怪しい?)、楽しみの享受者である視聴者がその対価を負担しなくて済むようにできています。

これに慣れてしまうと、新聞のように購読料のかかるものは敬遠されます。ネットも、その功罪はどうあれ、今のところネットにあるものはタダという不文律というのか、暗黙了解というのか、そういった慣習ができてしまっています。この慣習を突き破って、ネットから得られる情報には対価を支払わないとならない、という古くて新しいルール(=常識?)が、果たしていまから巻き返しをはかって成り立つものでしょうか?

そういう意味で、著者の意見には共感するところが多かったです。ただ、音楽業界と同じ道を歩むのかについてはちょっとペンディングです。以前にこのダイアリーでも書きましたが、音楽の場合、レコードは持ち歩くようなものではなく、家で聴くものという大前提があり、そこにソニーのウォークマンが登場し、テープにダビングして持ち歩くようになったわけです。誰もが「My Favorite Songs」といったタイトルの、オリジナル編集のテープを作った思い出があるでしょう。

そういう前史がある音楽業界は、多少の紆余曲折はあるとはいえ、iPodなどの登場、そしてダウンロード配信という流れは、ある種必然だったと思います。でも、人によって感想に多少の差はありますが、それでも大多数の人にとって、いま売られている電子書籍リーダーと文庫本や新書はどちらが携帯に便利かと言われれば、後者に軍配を上げるでしょう。電子書籍リーダーなら数十冊、いや数千冊持ち歩くことも可能ですよ、という意見もありますが、そもそも100を持って数えるような本を持ち歩くことなんかないし、そんな必要もないでしょう。

ですから、前史が全く異なる音楽の世界と出版の世界を同じような道を歩むというスタンスで書かれても、ちょっと違うんじゃない、という気がするのです。

ただ、そんなことより、この手の「電子書籍の未来」「iPadの衝撃」といったテーマの本、このところたくさん出版されています。ただ、ざっと見た限り、著者はIT業界の人とかマーケティング関係の人が多いような気がします。さもなくば本書のように元編集者といった出版業界の人です。こういう方々の意見、玉石混淆な面はありますが、あたしとしては傾聴に値するものが多々あると思っています。

ただ、いまあたしが知りたいのは、というか聞いてみたいのは、電子書籍にまつわるあれこれについて書店の人はどう思っているのか、という声です。それで一旗揚げようと、やたらとバラ色の未来を吹聴するITの人、悲観的になって文化の崩壊を唱える出版界の人。こんな風にレッテル貼りをしてはいけませんが、ただ、この二者からの本ばかりではなく、もう一方の当事者である書店人の声が聞きたいのです。



この手の本で、書店の人が書いた本、管見の及ぶ限り知りません。となたかご教示くださいませ。

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