2011年3月29日

なんとなく弱気?

あたしの勤務先から毎月出ている新刊は、各書店から事前に「これだけ配本してください」というオーダーを募り、それに基づいて行なっています。中には、「このくらいの値段の本だったら、このくらいの数を入れてね」と口約束と言いますか、そういう暗黙の了解になっている書店もありますが、基本は上に述べたとおりです。

毎月毎月いろいろな本が出ますので、ジャンルも値段もバラエティ豊かですが、それでも「この本は、この書店なら何冊くらいだな」という経験則が働きます。その予想はかなりの確率で当たりますが、まれに時流に乗っているのか、はたまた書店の担当者がその方面に興味があるのか、こちらの予想よりもかなり多い数のオーダーが入ることがあります。「あっ、この本、売ろうという気なんだな」とこちらも嬉しくなりますが、それと同時に「もしかして、こちらの予想以上にこの本は期待できるのかな?」と、別な期待も膨らみます。

書店からの事前のオーダーで、その本の期待値がある程度わかるというのも販売戦略上おろそかにはできないデータです。もちろん、あまりにも事前のオーダーが多いときには、初版の印刷部数を考え名祖左内とならない場合もありますし、それはそれで苦労があります。(もちろん、「これだけしかオーダー来ないの?」という本もありますけど・・・・・・)

で、大まかに言えば、ふだんはそれほどの誤差のない新刊のオーダーなのですが、震災後に届く、来月の新刊のオーダーにちょっとした異変が起きています。確かにこの半年くらい前からその傾向がうっすらと現われては来ていたのですが、震災後に顕著な気がします。

はい。もうおわかりだと思いますが、オーダーの数がめっきり少なくっているのです。すべての書店がそうだというのではありません。これまでどおりの数の書店もたくさんあります。でも、ポツポツと数が少なくなっている書店さんもめにつくのです。

以前だったら、この書店はこの本なら5冊のオーダーが来ていたなというところが、1冊や2冊だったりという感じなのです。別に震災で被害を受けた地域にある書店ではありません。恐らく、物的、人的被害は全くなかったと思われます。それでも、こういう感じなのです。

たぶん、この時期だから、消費の冷え込みを考慮して、少しオーダーを控えめにしているのでしょう。やむを得ませんね。こんな状況で本を読むような心の余裕があるのかと問われれば、ある人にはあるだろうけど、誰にでもあるとは言えない、くらいの返答しかできません。

被災した人、菲才はしていなくてもショックを受けた人が、それを癒すのに、一時でも辛い現実を忘れるために他のことに心を向けるのは当たり前のことで、それが読書である必要はないと思います。でも、音楽とかお笑いとかと同じように、読書だからこそできる癒しもあるんだろうなあ、とは思います。

現に郊外の書店では、計画停電が始まってから、その時間は手持ちぶさたになるからなのか、本のまとめ買いをしていくお客さんがいるとのことです。別に声高に読書のアドバンテージを訴えようとは思いませんし、そこまでの影響力があるとも思っていません。

でも、なんか本を読みたいな、と思っている人は、たぶんあたしの想像以上に多いと思いますし、本を読むことで癒され、勇気を持てる人もたくさんいるのでしょう。この土日は計画停電がなかったので、都心の書店もかなりの賑わいだったそうです。そんなことを書店員さんから聞くと、それなりに本の力を感じます。

早く、事前のオーダーがもとの数に戻りますように、と願わずにはいられません。

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