2010年12月 1日

電子書籍の時代

ちくま新書『電子書籍の時代は本当に来るのか』読了。

後半がちょっと抽象的な感じでわかりにくかったですが、それまでは現状を明快に解説してくれていて、期待と不安などがよくわかりました。(後半はこれからのことを書いているので、どうしても歯切れが悪くなるのはしょうがないでしょう。)

著者も何度か本文中で指摘しているとおり、我々は、電子書籍という言葉がそれを表わしていますが、やはりあまりにも「書籍」という形にとらわれすぎているのかな、と思います。そう考えると、著者が後半で紙版と電子版について語り、再販制崩壊などとも言っていますが、そもそも紙版と電子版の二つを出す必要があるのか、電子書籍は紙の本とは全く別個なものを出していけばよいのではないか、という気がしてきました。

そのように考えると、iPadは読書には不向き、目が疲れると言われていますけど、そんなことはないのではないかと思えます。つまり、あくまで「本」を液晶ディスプレイで読もうという、その前提が間違っているのではないか、ということです。また、更に考えるなら、iPadの大きさや重さも再考の余地は十分にありそうです。

それと、電子図書館など世界がネットワークで繋がることのメリットばかりが書かれていますが、そしてそれは止めようのない社会の潮流なのかもしれませんが、あえて繋がらないという選択もアリではないかと思います。

同じ土俵で考えてはいけないと思いますが、日本中が新幹線や高速で繋がって、かえってその土地の醍醐味は失われ均一化してしまっていることや、あえて交通不便なままにしておくことによって「秘境」感が増し、むしろ訪問者が増えている温泉地などもあります。繋がらないことのメリットも考えてみたいと思います。

あと、世界中の文献が自宅に居ながらにしてみられると言いますが、確かにかつて大学院生として研究者の端くれにいた身としては嬉しいです。でも世界の図書館の蔵書検索ができれば十分です。図書館としては保存のために電子化しておくこと(これまでだったらマイクロフィルム化)は大事でしょうけど、学問をする上で、そんなに便利なことばかりでよいのでしょうか? そこまで行って調べてくる、その手間暇というのは目に見えないし、はっきりとした成果となるわけではないですけど、案外重要なことなのではないかと思います。

読んだ感想を書く