2010年10月10日

ノーベル賞のこと

今年のノーベル賞は、化学賞に日本人の受賞が出たということでまずは盛り上がり、続いて「今年こそハルキか?」と話題の文学賞は南米の作家が受賞しました。

あたしの業界としては、やはり文学賞が最も話題になり、たぶん、村上春樹が受賞していれば、もっともっと新聞や雑誌でも大きく取り上げられたのだろうと思います。

そうなれば、書店での本の売り上げも変わってきますし、そもそも本屋へ来る人が格段に増えるはずです。お客が増えれば、そのぶん売り上げが伸びるほど単純ではないですが、やはりそれなりに売り上げ増にはなります。そういう意味でも村上春樹にとって欲しかったと思っている書店員の方は多かったのではないでしょうか?

もちろん、ノーベル賞を取ろうが取るまいが、村上春樹は売れるから関係ない、という意見も耳にしますが、やはりアンチ春樹や無関心層にも訴求力があるのは、やはりノーベル賞受賞という錦の御旗ではないでしょうか?

でも、ノーベル文学賞、このところ海外の作家の受賞が続いていますが、書店での売り上げは今一つのようです。芥川賞、直木賞と共に、この業界では最も影響力の大きい、つまり売り上げに結びつく賞なんですが、ここ数年、一時は話題になってもすぐに忘れられ、「こんなに抱えた在庫をどうしよう?」という書店員さんの悲鳴だけが残ります。

たぶん、村上春樹が受賞していれば、そんなことにはならないのでしょうけど、賞の権威が落ちたのか、無関心層が増えたのか、はたまた関心はあってもこの不景気では本にお金を割く余裕がなくなっているのか......。たぶん、すべて正しいのでしょう。

たた、今年に関しては、村上春樹が取っていたとしても、その後の平和賞の話題で、すべてが吹っ飛んでしまった可能性は十分にあります。中国の劉暁波の受賞で、日本人の受賞もどこかへ行ってしまった感があります。ましてや、ほとんどの日本人が知らない南米の作家のことなんて、本当にささやかな記事が出たくらいで、その後は何か話題になっているのでしょうか?

そのくらい、今回は平和賞の扱われ方が大きいです。たぶん文学賞を村上春樹が受賞していたとしても、平和賞の前にはかすんでしまったのではないかと予想されます。

なにせNHKをはじめ中国国内の海外放送がノーベル平和賞のニュースを流したら画面が黒くなってしまったとか、ネットで劉暁波と入れても検索できないとか、いかにも中国らしいニュースがその後も飛び込んできています。

確かに中国も中国ですが、たぶん中国としては「自分たちなりのペースできちんと民主化も自由化もしていくから、とにかく回りからゴチャゴチャ言って引っかき回さないでくれ」というのが本音ではないでしょうか? 言われなくたって、時間はかかるかもしれないけど自分たちの力でなんとか出来るよ、という思いもあると思います。

ただ中国の、特に政府としての誤算は、あまりにも速いスピードで国際社会の表舞台に立ってしまう羽目に陥ったってことではないでしょうか。舞台に立つのはもう十数年先のはずだと考えていたようにも感じられます。でも、本人の意志とは関係なく、舞台に立ってしまった以上、国際ルールという脚本どおり演出どおりに演じなくてはいけません。それがジレンマなのではないでしょうか?

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