2010年6月11日

春狂い

春狂い』読了。

相変わらず宮木さん、切ないです。それに今回は、怖さと美しさが加わりました。

主人公はちょっと想像も出来ないほどの美女、否、美少女なのですが、その悲しい人生が胸を打ちます。ストーリー自体は、実際問題として考えるとかなり荒唐無稽で、オムニバス形式の各物語がそれぞれ繋がっているという、昨今ありがちな展開。こんなに狭い世界で完結するなよ、と言いたくもなりますが、むしろ、少女のあまりの妖しい魅力に、周囲の大人たちが引き寄せられていった、と考えれば、それも納得できます。

それにしても、孤独です。この孤独感は、あたしもわかりますが、あたしは幸いにもここまで追い詰められてはいなかった。何に縋ったらいいのかわからず、縋るものも見つけられず、一人で闘うしかない少女の苦しみは、多くの自殺者(特に中高生)に共通するものなのかもしれません。

主人公と双璧をなす美少年も切ないです。登場シーンは僅かですが、少女の心の中でずっと生き続けているので、ずっと存在感を保っています。美少女を取り巻く人々が次々に死んでいく中、憎しみを愛に変えたのかと思われる教師二人が結婚することになり、結局は死なずにすみ、またその男を迷わす美しさでは少女と並ぶほどの人妻が、案外あっさりと人生の幸せを見つけたのは、宮木さんなりの回答なのでしょうか?(ちなみに、少女の美少女ぶりは、あたしの数少ない読書体験から言うと『少女七竈と七人の可愛そうな大人』に並びます!)



それにしても、この作品では桜が印象的に使われています。宮木さんご自身が桜に対してこうしたイメージを抱いているのかはわかりませんが、少なくともこの作品で描かれている桜のイメージはあたしがイメージする桜に限りなく近いものです。

願わくは、花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ

この春は、特に運気が下がっていて、ずっとブルーな気分で過ごしていましたので、桜は、見ていてもとても悲しかったです。この作品、できれば桜の季節に読みたかった。

今を盛りと咲くよりも、桜は、やはり散り際が美しい

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