2010年6月11日

書評棚の功罪

本屋さんによっては、入り口やレジの近くに「書評本コーナー」「書評棚」を設けているところがあります。もちろん、もっと奥まった場所に設けている本屋さんだってありますし、書評棚なんて作っていない書店さんも数多いです。

書評棚とは、つまりは大手四大新聞の日曜日の紙面にある通称「読書欄」で紹介された(取り上げられた)書籍を並べている一角のことで、漠然と並べている書店もあれば、各新聞ごとに仕切りを設けて並べている書店もあります。

東京だとそんな感じですが、地方へ行くと地方ごとの新聞(いわゆる地元紙)の「読書欄」と朝日、日経の「読書欄」で取り上げられた書籍を集めて並べている場合が多いでしょうか。新聞紙面が壁に貼ってあったり、紐で棚のそばにつり下げられていることもあります。

やや規模が多きと、一番前とか上など、目につきやすいところ前回の(今週の)書評本を面陳で並べ、先週以前の本は棚差し状態で並べている場合もあります。読書欄の切り抜きを持って来るお客さんの中には、数週間前の本を探している方もかなり大勢いるのだとか。中には「この前の新聞に出ていたんだけど」と言われて調べたら、3週間前の紙面だったということもあるそうで、こちらからすると、意外とお客様も呑気で気が長い方が多いんだな、と思えます。

さて、この書評棚ですが、お店で話を伺っていると、いろいろとメリット、デメリットがあるようです。

先にメリットから。

まず、お客さんが本を見つけやすい、ということです。これだけ本が出ていると、どんな本を読もうか、なかなか決められない方も多いようで、そんな中、新聞の読書欄は道しるべとしてまだまだ有効です。なので、そこに出ている本が、本屋に行ってわかりやすいところに置いてあれば、じゃあ買おう、となるわけです。

近頃のお客さんは、やはり店員に声をかけるのが苦手なようです。もちろん検索機械なんてうまく使えません。新聞で見たあの本はどこにあるのだろうと店内をうろうろ歩き回らなくてすむという大きな利点があります。

そして、そうやってお客さんが本屋に来てくれると、他の本も買っていってくれる可能性が高まる、とにかくお客さんの足を本屋に向けさせることができる、という効果もあるようです。

最近の本、あたしたち業界の人間ならタイトルとか出版社、それに書評の文面を読めば、だいたい本屋のどこの棚を探せば見つかるか見当がつきます。でも、それはあくまで業界人と本屋に通い慣れている人の話。たまたま新聞で見て興味を持って本屋に来たという人にとって、昨今の1000坪クラスの書店はどこから手をつけてよいのかわからない、まさしく本の海原ではないでしょうか? だったら「書評に出ていた本は、ジャンルに関係なく全部ここだよ」というのはわかりやすい配慮です。

でも、デメリットもあります。

上で、本屋に来てくれる人が増えると書きましたが、一方で、書評の棚だけ見て、お目当ての本を手にとってレジに並んで購入そのままお帰り、というお客さんも多いようです。これでは、書評棚以外の棚の本はなんのために並んでいるのかわかりません。お店の人が汗水流して並べた棚で、本はお客さんが手に取ってくれるのを待っているのに、見てももらえないのですから。

それでも、来てくれたのに、(書評棚がないから)本を探し出せず、店員に聞くのも面倒臭いから、買わずに帰ってしまった、というよりは書評棚がある方がマシなのかもしれません。

あと、書評で取り上げられる本はそれだけかもしれませんが、どの本にも同じ著者の本とか、内容が関連する本というのがあるはずです。書評棚では読書欄に出た本しか置きませんから、その本と親戚あるいは兄弟と呼べそうな本は、その本が本来あるべき書棚に行かないと置いてありません。ネット書店と違って、リアル書店の面白さはある本を探しに行ったら、その隣に並んでいた本の方を買ってきてしまったというような、偶然の出逢いです。書評棚ではそういう出逢いはほぼあり得ません。これはせっかく本屋に来たのにもったいないことだと思います。

ぐだぐだと書いてきましたが、ここ数ヶ月、あたしの勤務先の刊行物が比較的頻繁に書評で取り上げられることが多いので、改めてふと考えてみた次第です。

あたし自身は、あたしなりに考えて上に挙げてみたメリット、デメリット、どちらもその通りなので、書評棚はやめるべきだとも、積極的に作るべきだとも言えません。

ある意味、昔からあった「書店員のオススメ本」とか「話題の本」などというコーナーも、形を変えた「書評棚」だと言えますし、ポップなども「書評」の一種と見なすこともできるでしょう。昨今の「書評棚」はそれらをもっと組織的に、かつ新聞というある種の権威を借りてきて大がかりにやったもの、と言うことができるかも知れません。

自分が得意とする中国関連であれば、書評棚などなくとも本くらい自分で探せますし、探します。でも、やや苦手なジャンルの本だと、まずは書評に取り上げられた本を試しに読んでみようかなと思うのも人情ではないでしょうか?

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