2010年6月 9日

落ち葉の部屋

そんな日の雨傘に』読了。

個人的に印象的に残ったシーンとして、彼女が出て行って、がらんとしてしまった部屋に、主人公が落ち葉をたくさん拾ってきて敷き詰める、というところがありました。曰く、落ち葉の部屋。

ちょっと、ちょっと、そんな命名やめてくれませんか? だって、「落ち葉の部屋」と言ったら、あたしの大好きな曲の一つなんですから。



沢田聖子ファンなら、この曲が大好きという人も多いはずです。それくらい、ファンの間でも人気のある曲です。

閑話休題。

それにしても、この主人公。いろいろと、考えているんですけど、どれも生産的でないし、それに生活していこうという意欲やエネルギーがゼロです。それなのに、それなりに女性とつきあっていたりして、そこがあたし的には不愉快です(汗)。

ストーリー自体は、何か大きな事件が起きるとか、そういうものではありません。小説ですから、それなりのエピソードは散りばめられてはいますが、だからといって、それが主たるテーマなのか、クライマックスなのかと問われたら、首を縦には振れないものばかりです。

つまりは、どうしようもない、生活力ゼロの中年男が、人生を先へ進もうとせず、ただウジウジとその場その場をやり過ごしながら、なんとなく目についたもの、思いだしたものについて考え、それを事細かに語っているだけです。

個人的には、こういう大きな出来事が起こらず、淡々と流れていく作品って、きらいでもなければ好きでもなく、淡々としたストーリーの流れが心地よければ好きになるし評価もするのですが、そうでなければ「起承転結もない、つまらない作品」と思ってしまうところです。

で、本作について言えば、主人公の情けなさが、心に沁みます。そらなのに、最後は何となく前へ進んでいくような、やや未来が開けたようなエンディングです。ある意味、しなやかな人生とも言えますし、結局、人生ってなるようになる、とも言えるのかなあと思えてきます。自分からは特にことを起こさないのに、なんとなくうまい具合に進んでいく、人生の岐路に立って重大な選択を迫られているのに選択を回避して、それでもうまい具合に切り抜けて生きている人っていますよね。悪い意味でも使うのでしょうが「要領のいい人」ってことでしょうか? 主人公は一見そうは見えないのですが、結果的には要領のよい人なのでしょう。少なくともあたしにはそう見えます。

で、あたしの心に残った言葉は
ほかの人間から逃げようと思わなくなったとき、人は愛するようになるんですよ(P.107)
です。主人公の日常の行動からは裏腹なセリフである一方、これこそ真実の声なのかな、とも思えます。

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