2010年5月29日

試読会

書店回りの途次、とある大手出版社の新刊が並んでいるのを見かけました。本屋ですから、本が並んでいるのは当然のことですが、その新刊、オビには表も裏もびっしりと全国の書店員さんのコメントが並んでいるのです。これも、まあ、昨今はよくある話で驚くには値しませんが、ちょっと興醒めです。

最近、どうも、オビにしろ広告にしろ、書店員さんのコメントというのが氾濫しすぎで、そういうのを見ると、気持ちが下がってしまいます。もちろん、面識のある方、仲良しの書店員さんが薦めている書籍だと読んでみようかな、という気持ちが起きないわけではありませんが、それでも、その気持ちと同じくらい、否、むしろそれを打ち負かすくらいのマイナス感情がわき起こってくるのです。

この気持ちの正体、あたしなりの分析では、「大手出版社はこうやって書店員さんのコメントを集められる力があっていいなあ」という僻み、羨望だと思っていました。でも、最近、そうではないんじゃないかと思い始めました。

確かに、同じ出版社の人間として、自分の勤務先ではこういうやり方はなかなかできないなあという、大手出版社に対する羨望館は間違いなくあると思います。でも、そうではなく、一人の読者として、「ああ、こうやって特権的に前もって本を読める人がいるんだ」という、別種の僻み、羨望の思いです。まさしく、子供じみていますが、「あの人たち、ずるい」という気持ちです。

これが、本が出てしばらくたってから、書店員さんのコメントが登場するのであれば、なんとなく納得するのですが、最初から登場していると、どうも......

で、さらに思ったのは、例えば映画ですと、封切り前に映画評論家などのコメントが広告にたくさん載っています。ただし、映画の場合、試写会というのがあり、もちろんマスコミ試写会とか関係者試写会などありますが、意外と一般の人も見に行かれる、門戸が開かれているものです。ですから、映画の広告ですと、評論家や芸能人のコメントと並んで一般の方のコメントも並んでいることがしばしばあります。

こういう映画みたいな形だと、評論家や芸能人だけが先に鑑賞できるという、一部の人間だけの特権がないので、あまり妬みや羨望を感じることはありません。

だったら、本でもそういうことはできないものか?

考えてみましたが、ちょっと厳しいですね。

映画の場合、座って2時間ほど我慢すれば上映は終わります。寝てしまう人もいるでしょうけど、まあ、持ちこたえることができる範囲です。でも、本の場合、2時間座っていれば済む話ではありません。自分で読まないとなりません。それも2時間で読み終わるかどうか、わかりません。読むのが早い人もいれば遅い人もいます。それに、たぶん、映画よりもっと眠くなる可能性が高いと思います。

それでも試写会ならぬ、試読会みたいなことってできないものでしょうか? いまはやりの読書会がそれに類するのでしょうけど、あれは原則発売されている本が対象ですし、時には何年も前の本を読むことだってあります。むしろ、それがふつうかも?

それに、読書会は読む会ではなく、読んだ人が集まって感想などを語り合う会です。映画の試写会のように、とりあえず大勢で見るというのとはわけが違います。本の場合、「読む」という段階を大勢の人と共有できるものなのでしょうか? 一人で静かに読みたいですよね?

やはり、試読会は無理か......。せいぜいできそうなことと言えば、刊行前に読みたい人を公募して、抽籤で選ばれた方に本を送り、感想を寄せてもらう、ということくらいでしょうか。でも、銅鑼だけの人が感想を送ってくれるのか?

と、まあ、つらつら書いてきましたが、こうやってみると、それぞれの特性に合わせて宣伝スタイルってのがあるものだと気づかされます。映画の場合、大勢が一斉に鑑賞するのに向いているので試写会を開くことが可能ですが、それ以外だとせいぜい画コマーシャルで数十秒の映像を流すくらいしかできません。

それに比べると本というのは、一部のコミックや写真集を除けば、本屋で自由に見ることができます。人によっては立ち読みで全部読んでしまう場合もあるでしょう。そんなこと映画ではできません。

音楽も、レコード自体には聴いてみるなんてできず、ラジオやテレビで流れるのが唯一のプロモーションと言えなくもなかったわけです。それがCDになり、扱いが楽になったのでお店によっては店頭での試聴が可能になりました。すべてのCDが試聴可能ではないみたいですが、人気のある歌手のものであれば、かなり聞けるようになってきました。

それにしても、インターネットが普及したことにより、映画の予告編は、ウェブではテレビCMよりも長く流せます。CDも店頭で試聴できなくとも、ウェブサイトでなら試聴できるものも増えています。本は、相変わらず本屋で立ち読み自由ですが、書店過疎地ではそうもいかないわけで、アマゾンや出版社がウェブサイトで立ち読みコーナーを設けていたりします。

うーん、やはりインターネットの普及って、プロモーション活動を大きく変えたのですね。果たして、iPadはさらなる変革を生むのでしょうか?

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