2010年5月26日

石鹸とは?(承前)

昨晩帰宅後、聴きに行ったトークイベントのことをこのダイアリーに書いたのですが、途中までしか保存されていなかったみたいで、内容とタイトルが全く脈絡なく、意味不明になってしまいました(汗)。

えー、実は、タイトルの「翻訳は石鹸」というのは、池内紀さんが語った言葉でして、曰く、石鹸(ハンドソープなどではなく、あくまで固形の石鹸)を使うとき、使い始めはいくら使っても角がちょっと丸くなる程度でなかなか減っている感じがしない。でも半分くらいまで減ると、あっという間に小さくなってしまう。でも、最後の最後、薄っぺらいひとかけらくらいまでになると、こんどはそれがなかなかなくならない。翻訳もそれと同じで、一つの作品、特に長編などの翻訳をしていると、初めのうちはいくらやっても全然進んでいる感じがしない。でも、半ばをすぎるとどんどん残りが減っていく感じがわかる。でも、あとちょっとというところまで来ると,その最後のちょっとがなかなかなくならない。

こんな風なことを池内さんはお話になりました。

今回のトークは、河出書書房の「世界文学全集」第2集完結記念ということで、訳者の一人として本全集に参画されている池内さんが、改めて主編の池澤さんに話を聞くという感じでもありましたが、池内さんご自身の本全集に対する感想としては、辺境を意識した作品が多いな、というものだったそうです。

それに対する池澤さんの答えは、20世紀後半になって、植民地の独立があって、人の動きがそれまで以上に活発になった、あるいは航空機などの輸送手段の発達もあれば政治的な理由での出国もあるが、とにかく人の往来が活発になったことが,必然的にこういう文学を生み出したのだ、というものでした(←あくまで、聞いたあたしなりの理解です)。

そういった意味で、第一巻が「オン・ザ・ロード」という、まだ途上である、移動している途中であるという意味を持ったタイトルの作品であることは示唆的であります。

また池澤さんは、それまでの文学全集は、外国文学の大家、あえて言えば大学教授たちが顔を揃えて、ではイギリスからはこれ、フランスからはこれ、ドイツからはこれ,という風にバランスをとりながら選択して出来てきたものばかりであったけど、そんなものを作っても面白くないと思った、とも語っていました。

「自分で読んで面白かったんだから、お前も読め」というのではなく、「これ面白かったんだけど、よかったら読んでみて」というスタンスなんだそうです。

確かに、「読め」と強制されたら読む気は失せますよね。

ところで、池澤さん的な視点に立つならば、池内さんが語った「辺境」という言い方も、もしかすると、これまでの固定的な「世界文学全集」風な考え方にとらわれているのかもしれないのではないでしょうか? なぜなら放浪する人、それが自分の意志で定住を拒否した人であれば、家畜と一緒に遊牧している人であれば、自分たちのいる場所を「辺境」だなどとは捕らえていないはずです。「辺境」と見なすのは、町に定住している側の一方的な見方にすぎないからです。

対談を聴きながら、そんなことを考えました。

さて、池澤さんは全集のパンフレットでも10年、20年残るものを、と語っています。個人的には金銭的にも、置く場所でも、全3集30巻の本全集はキツイです。電子書籍化して、半額くらいの値段でiPadやキンドルにダウンロードできるようにしてくれないでしょうか? もちろん30巻セット販売で構いませんが。

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