2010年5月 4日

強い女と愛する勇気

冬のいた場所』読了。

宣伝文句には「30年の時を経て、心が通い合う瞬間を描いた大人の純愛小説」とありますが、果たしてこの二人、本当に心が通い合っていたのでしょうか? そこがちょっと疑問、というか、そこまで描く前に、ああいう結末にしてしまって......

ただ、主人公が、時が止まったような家で、心の時間も止まったかのような生活を送っている気持ちというか、雰囲気はわかります。あたしも、もしかしたら、そんな人生をずっと送ってきたかもしれないと思うからです。

でも、主人公が思いを寄せる相手にしても、本当に思いを寄せていたのか、そもそもそこまでの若い頃の想い出なり関わりなりがあったとは思えないです。それでも、時々なんとなく思い出してしまう、という感じはよくわかります。だからこそ、それが恋なのか愛なのか、ただのノスタルジーなのか......。たぶん、主人公もわかっていないのでしょうね。少なくとも作品を読む限りでは、主人公にしても相手の男性にしても、三十年の間、密かに相手を想っていたという感じはしません。

でも、こういう燃えるようで燃え上がらない、そんな静かな恋愛って好きです。もどかしいと想いつつも、やはりいいなあと想います。設定がだいぶ異なりますが、ある種、同窓会で久しぶりに再会して、といった筋立てに似ている気がします。

それにしても、こんな風に数十年たっても、まだ相手のことを想っていられるのでしょうか? いや、思い続けていたいと想います、あたしは。時々思い出しているだけの相手と、時を超えて再会したらお互い当時の甘酸っぱい記憶がよみがえってくるものなのでしょうか?

こういうしっとりした作品を読みながら、一方で谷村有美を聞いています(爆)。『冬のいた場所』がある意味、後ろ向きというか、想い出を引きずって生きているような作品であるのに対して、谷村有美の歌は前向きです。
さよならだけは言わない
ひとりで帰れるように
あなたに逢えて幸せだった
さよならだけ言わない
泣き顔見せないように
あの日へ二度と戻れないのなら (「いちばん大好きだった」より)
別れの想い出すらも、笑顔で見送ってしまう感じです。
もっと何倍も強くならなければ
私が私でいられるために
背筋を伸ばして深呼吸したら
笑顔になれるよ だから大丈夫 (「たいくつな午後」より)
谷村有美は十分「強い」と思いますが......(汗)。きっと、めそめそしないで、笑って明日を迎えたいという気持ちなのでしょうね。
信じることをあきらめないで
だめな自分をそんなに責めないで
信じることをためらわないで
明日はとびきりの朝をくれるから (「愛する勇気」より)
うん、やはり、谷村有美には笑顔が似合う。でも、寂しそうにしている表情も好きです。
掌でかかえきれない
明日があることを忘れないから
想い出を振り向くよりも
新しい私が好き
ときめきをBelieve (「ときめきをBelieve」より)
そうそう、『冬のいた場所』でも、主人公は一生懸命未来に向こうとしていましたね。見習わなければ!
つかまれた腕に振り向いて
抱きすくめられて 動けなくなる
うつむいた頬を手のひらですくって
唇を重ねた 狂おしいほど (「恋に落ちた」より)
ここのフレーズ、好きです。

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