2009年3月11日

「新装版」考

最近、と言っても、この数日という意味ではなく、もう少し長いスパンの話です。そうですね、この一、二年ってところでしょうか?

その最近、あたしの勤務先の出版物には、タイトルにやたらと「新装版」と付くものが増えたような気がします。気がするのではなく、事実そうです。

それがどうした(?)と言われそうですが、周りを見回してみますと、あんがい他の出版社でも出ているんですよね。でもこの数年増えているような気がしませんか?

読者の立場から見たらどうなのでしょうか? あたしが一読者として考えてみます。

単行本が文庫になった場合、かなり好きな本や作家の場合、両方とも買う場合があります。特に文庫化に当たって、かなり手を入れているとか、書き下ろしの章などが追加された、なんていう付加価値があれば、ますます文庫も買う確率が高まります。

ただ、いま話題にしている「新装版」というのは、ほとんどの場合、そういうものではありません。以前あった本の表紙(カバー)を買えて出し直しただけのものが多いです。まさしく「装いも新たに」です。

よく、映画やドラマの原作本が、その映画やドラマの公開・放映に合わせて帯が変わるなんてことはよくありますが、そういうのとは違います。

純粋に良い本であるなら、あるいは価値の古びない本であるなら、絶版・品切れのままになっているよりは、どんな形であれ再び日の目が見られるようになるのは嬉しいことだと思います。

でも、だったら通常の重版で構わないじゃない、という疑問もわきます。何の追加(付加価値)や訂正があるわけでもないのに、あえて「新装版」を名乗って改めて出版するのはどうしてかと聞かれたら、結局のところ出版社の勝手な都合なんですよね。

ご存じのように、本は基本的には書店を置いてもらっている(売ってもらっている)性格の商品で、ただ、何でもかんでも自由に(勝手に?)出版社から書店に送りつけることはできません(←やっている出版社もあるとかないとか?)

間に取次という問屋が入りますが、話を単純化するために出版社→本屋という図式で書きますが、本を置いてもらうと言っても、そこではいったん本代を本屋が出版社に払うことになります。(売れなくて残った本を書店から出版社に戻す時は、こんどは出版社が本屋にその代金を払うことになります。)

出版社にとって大事な収入ですから、出版社としてはできるだけ本屋に本を送り込んで、その代金をかき集めたいところです。でも上にも書いたように通常は勝手に本を送りつけるというのはできなくて、あくまで書店に働きかけて(←これが営業、販促です)、注文を出してもらうように努力するのです。

ただ、一つだけ自由に(と言っても完全に自由なわけではありませんが......)本を送り込めるシステムがあって、それが新刊の発売なんです。新刊の場合は、ある程度まとまった量の本を全国の書店に並べてもらわないと、そういう本が出ているということすら認知されませんので、販売委託という形で出版社から本屋に本を送りつけることができるのです。

ここがミソです。ただの重版ですと、それは新刊でも何でもありません。出版社が勝手にまた本を作ったというだけのことです。でも「新装版」と名づけ、あくまで新刊として出すとなると、出来上がった本の一定量を本屋さんに送りつけることが可能になります。

そうすれば、お金が入ってきますから、かかった制作費の何割かは回収できることになります。ただの重版では本屋に送りつけるのもままなりませんから制作費の回収にも時間がかかります。

これが出版社の台所事情であり、各社から「新装版」が出る裏事情です。こういうことを知ってしまうと、あたしなどは少しでも訂正を施すとか、書き下ろしを一章でも加える、それが無理なら新たな解説を加えるなどの措置を講じるのが、最低限の出版社のマナーではないかと思うのですが、そういうことをしている本は少ないですね。

中にはある本の新装版であるのは明らかなのに、全く別のタイトルをつけ、まえがきかあとがきを読まないと以前出ていた本の新装版であることがわからないようになっているものもあります。(←これは他社の例です。)

こうなるともう完全に売らんかなという姿勢がありありとしていて、同じ業界人として情けなくなりますが......

こういうせこい商売が流行るのも、出版不況がいけないのでしょうか?

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