2008年10月 5日

チョーかハンか?

小学館から『日韓辞典』が発売されました。

これまで朝鮮語・韓国語の辞書の世界では、小学館の『朝鮮語辞典』がトップセラーで、また後発で、なおかつコンパクトサイズではありますが、コンパクトだからこそ『ポケットプログレッシブ韓日・日韓辞典』が売れていました。


で、小学館の『朝鮮語辞典』がトップセラーだと書きましたが、この朝鮮語・韓国語の世界では名称もかなり重要なウェイトを占めています。つまるところ、「朝鮮語」を名乗る小学館の辞典が、よくもまあトップセラーでいられるな、ということです。

ここまであたしは「朝鮮語・韓国語」という書き方をしてきましたが、たぶん現状ではこれは少数派で、ほとんどの場合「韓国語・朝鮮語」あるいは「韓国・朝鮮語」という言い方、書き方をしていると思います。つまり「韓国」が先なんです。

アマゾンの和書のカテゴリーを見てください。「韓国・朝鮮語」という順番ですよね。

かように朝鮮語は避けられて、韓国語が優勢なのです。

ま あ、理由は書かなくてもわかりますよね。多少のギクシャクとか嫌韓、反日の感情はあるものの、W杯以降、基本的には日韓両国はかなりの親近感を深め、相互 の渡航者数も相当数に上っています。そういう有効ムードを醸し出す「韓国」という単語に比べ、「朝鮮」という単語はまるっきり逆です。どうしても「北朝 鮮」をイメージしてしまいがちです。

書店の諸外国語の棚でも、「フランス語」「ドイツ語」「中国語」などと親切にプレートで言語分けを表示しているお店が多いですが、中には「朝鮮語」「韓国語」と、あえて別々にしている書店もあるんです。

担当の方に聞くと、多くの場合「えっ、朝鮮語っていうのは北朝鮮で、韓国語が韓国の言葉だと思っていました」という答えです。そういう連想も仕方ないですかね。語学の担当者が必ずしも語学に詳しいとは限りませんので......

さ てどう呼ぶか、研究者によっても意見の相違があるようで、全国の大学の講座の名称一つとっても定まっていません。NHK講座が「ハングル」を名乗っている のは苦肉の策で、ハングルは文字のことですから、本当のところこの名称も語学講座の名前としてはおかしいのですが、時には「ハングル語」なんて、トンチン カンな名称すら存在します。

で、朝鮮語も韓国語も、こと日本で出版されている語学書に関して言えば同じ意味のはずです。あえて「北朝鮮」 の言葉であると示したいときには「北朝鮮」ということを明示しているはずです。また旅行会話書などでは、やはり渡航先が韓国ですから「韓国語」という表記 が大多数です。

あたし自身は、朝鮮民族の言葉、朝鮮半島で使われている言葉であるという実情から「朝鮮語」という名称で構わないと思って いるのですが、北朝鮮という、日本にとってあまりにも負のイメージを持った国を連想させてしまうので、出版界ではこの数年、かなり極端に「朝鮮語」という 単語が避けられている気がします。

トップセラーである「朝鮮語」辞典を出している小学館が、ようやくその逆の日本語→朝鮮語辞典を刊行したのに、その名称が「日朝」ではなく「日韓」であるのは、なにやら示唆に富んでいると感じます。

ちなみに、「ポケットプログレッシブ」も小学館の辞書ですから、小学館が初めて「韓」に踏み出したというわけではありませんので、あしからず。

読んだ感想を書く