2006年12月15日

孫子兵法発掘物語

孫子兵法発掘物語』読了。

学術書というよりは手軽な読み物です。孫子の兵法やその発掘にまつわる学術的な蘊蓄は、巻末の浅野氏の解説を読んでいただければよいでしょう。

さて、本文。内容は面白いです。世紀の発見であるにもかかわらず、相当にぞんざいな扱われ方をした竹簡たち。その後も中国社会独特と呼ぶべきか、共 産社会独特と呼ぶべきか、はたまた文革時代の悲劇と呼ぶべきかわかりませんが、とにかく保管なども私利と権力欲に振り回されて悲惨です。

それでも学者たちの良心によって、かろうじて最悪の状況は免れ、今に至るというわけです。もちろん、今もいろいろしがらみが残っているようですが......。

そういったドキュメントとして読めばおもしろい物語です。もちろん実話です。

ただ、訳者の方はかなり中国語が堪能な方だと思うのですが、翻訳の文章はあまり読みやすいとは言えません。

いや、これは訳者の力量のせいではないでしょう。原文がよくないのだと思います。

私も中国語で書かれたものを読む機会はありますが、本書もまさしく「いかにも中国人の文章」という表現が頻繁に登場します。なんでこういう修飾語の 使い方するかなあ、と思ってしまうところがしょっちゅう登場します。原著者の文章そのものが、読み応えのある文章になっていないんだと思います。

もちろん訳者がそれを直訳するのではなく、意訳することによって読みやすくすることは可能かもしれませんが、私が感じる限り、訳者はかなり忠実に翻訳(直訳)している感じがしました。

2006年11月14日

項羽と劉邦の時代

項羽と劉邦の時代―秦漢帝国興亡史』読了。

項羽と劉邦、およびその前後の時代を、『史記』や『漢書』の記述だけを頼りとするのではなく、出土資料なども斟酌しつつ、改めて概観した一書。

『史記』と『漢書』の記述の矛盾点だけでなく、『史記』の中の矛盾など、これまで薄ぼんやりと疑問に感じていたことなどを、出土資料やそこから見え てくる当時の社会状況をもとに推論し、納得のいく(辻褄の合う)結論を導き出してくれるので、目から鱗の落ちる思いで読了しました。

ただ、一般読者向けの本であるため、出土資料などの扱いに、やや簡略すぎる感もあり、いちおうは中国史を専門とした身にはやや物足りない部分もありました。

その一方、講談社選書メチエという容れ物から察するに、専門家以外の人を読者として想定しているのでしょうけど、やはり中国史に興味を持っている人でないと若干難しい部分もあるかと思います。

しかし、全体的には、各章はコンパクトにまとまっており、図版なども十分に入っていますので、理解しやすく、読みやすい本です。

2005年5月25日

漢語からみえる世界と世間

中川正之『漢語からみえる世界と世間』読了。

著者・中川先生は、あたしが担当した『白水社中国語辞典』でたいへんお世話になった方なので、こういった読書感想は書きにくいのですが......。

全般的に言って、言語学に興味のある方には十分面白く、肩肘張らずに読める本です。並製という造りからもわかるように、決して専門家向けではなく、一般の<コトバ>マニアにも十分楽しめるものと言えます。

ただ、やはり一般の方の場合、中国語を知ってないとついて行きにくい部分もあります。説明しなければいけない部分をかなり省略したのではないかと思 われますので、「なんで、そうなるの?」といった疑問が中国語不安内の人にはわき起こるかもしれません。よく言われるように言葉は生き物なので、また中川 先生自身が本書中で書かれているように、もっと実例を採取したり、検証したりしないといけない部分も多々あるでしょうが、そういう部分を抜きにして、日本 語ってこんなに中国語の影響を受けたのに、こんなに違うんだ、と素直に感じられればよいのかもしれません。

また「世界と世間」というタイトルで、これが「新書」であれば、それこそ誰が読んでも面白おかしいエッセイになるのでしょうが、そこは岩波書店、読者ターゲットはもう少し上級をねらっているという感じがします。

刊行前に、中川先生とお話しした時に、ちょうど反日デモなども起こっていた時期でしたので、言葉を通じてどのように世界・世間をとらえているかとい う日中比較の視点から、現在の状況に触れるのも面白いかもしれないが、状況があまりにも過激に動いているのでそこまで踏み込まなかったというような話を伺 いましたが、本書を読んで現在の日中問題を考えるのは、偉そうな言い方かもしれませんが、読者の仕事ではないかと思いました。

2005年5月21日

学研・藤堂漢和、改訂

学研から出ている藤堂明保『学研漢和大字典』が改訂されました。今度は『新漢和大字典』という名称です。

学研によりますと

親字約2万字へ大幅追加。コトバを記録するための文字という言語学的原則から、意味・成り立ちを解説。音と意味との関係を再整理し、用例を多数追加。平成16年のJIS改正と新人名漢字に対応。コンピューターにも対応する最新漢字情報。

ってことのようです。この字典、多少クセはあるものの、古代音などの復元など、それなりに面白い試みも満載なので、こういった名著が時代の流れに合わせて改訂されるのは、とても嬉しいことだと思います。