2006年9月29日

「反日」とは何か

「反日」とは何か―中国人活動家は語る』読了。

本書の特徴は、著者自身の言葉で語るよりも、その副題にもあるように、日本のマスコミではしばしば「反日活動家」などと紹介される中国人活動家へのインタビューを中心に構成されています。著者の意見や言葉は全体の1割か2割といったところでしょうか。

本書に登場する活動家がほぼ一致して語るのは、自分たちは決して「反日」なんかではない、ということであり、反日デモなどで暴力行為を働くことには 断固反対するし認めない、ただ日本のマスコミもそういったごくごく少数の人が起こした暴力沙汰ばかりを報道するのには不満がある、ということです。

まず中国人全体で「反日」とまでは行かなくても「嫌日」野一色が広まっているの事実だと思いますが、中国政府首脳から庶民まで、できることなら日本と中国は仲良くやっていきたいと願っているのも事実だと思います。

上海で「反日」デモが行なわれたその同じ時に、すぐ近くで日本人観光客のガイドをしていた中国人もいれば、日本人との商談で盛り上がっていた中国人 もいたことは、確かにあまり日本では報道されていません。一部の過激な人だけを取り上げていたずらに「嫌中」「反中」感情を煽るのは、彼らが指摘するよう によくないことだと思います。

ただ、それならば靖国神社参拝や作る会の教科書などを支持しているのも日本人の一部であって、そこだけを取り上げて、あのようなデモにまで突き進んでしまう中国も同じことではないかと思うのです。

彼ら活動家の意見を聞いていて気になったのは、確かにそれはそれで十分筋の通った意見ではあると思いますが、「小泉が悪い」「日本がきっかけを作っ た」というように、なんでも日本のせいにしてしまう姿勢です。もう少し自分たちの側を客観的に見る姿勢があってもいいんじゃないかと思います。

それとインターネットをかなり高く評価していること。日本人ならネット上の論調は確かに庶民の声や心理をとらえていることもあると思いつつも、一方 で非常に冷めた目で見ていることが多いと思います。ところが彼らは、もちろんネット上の暴論を認めつつも、日本人に比べるとはるかにネットを信用し肯定的 にとらえているなあと思いました。

ところで、本書に登場した活動家には日本留学経験のある人もいます。日本語が堪能な人、日本の事情ってものをよく知っている人もいます。日本に留学 までした人がどうして「反日」「嫌日」に走ってしまうのか(←彼らは自分を反日だとは考えていませんが)、日本人としてこの点はしっかり考えないといけな いと思います。

作る会の教科書一つをとってみても、中国人の多くは、あの教科書の主張は日本政府の立場を語っている、日本の学生は全員あの教科書で間違った歴史教育をされると思い込んでいるようですが、そういう誤解を一つ一つ解いていくことが肝要なんだと改めて気づかされます。

最近のショーと化したテレビ番組では、ほとんど中国のことを知らない評論家連中や政治家が出てきて口角泡を飛ばす勢いで中国を非難していますが、や はりそういう番組に本当に中国のことを知っている、理解している人が出て、正しい情報を伝えなくてはいけないのではないかと思う次第です。(このことは逆 に中国においても、今後はますます日本のこときちんと理解している人の役割が高まることにもなると思います。)

2006年9月26日

北京ドール

北京ドール』読了。

中国では発禁になったそうで......。こういう作品って、感想に困ってしまいますね。

確かに、中国の若者のライフスタイルもずいぶん変わったな、ということはわかります。もちろん北京や上海など一部の都会でのことですけど。

むしろ、これを現代の東京に舞台を移したとしても、十分に<不良>のレッテルを貼られるような生き方です。これで通用してしまうまでに中国も変わった(資本主義化した? 腐敗した?)ってことなんでしょう。

さて、作品としてみた場合、何か大きなドラマがあるわけではありません。かといって、淡々と時が流れて、そこにしみじみとした空気が漂うという類のストーリーでもありません。

はっきり言ってしまうと、まとまりがなくて、どっちへ持っていこうとしている小説なのか、全然掴めません。これが今時の若者(!)と開き直られたら、返す言葉もありませんが、これで小説として成立しているのかなあ、という気もします。

この手の小説、ありきたりかもしれませんが、こういった不良まがいの言動を通じて主人公が大人になっていくというのが一つのパターンであると思いますが、そういったものは何もありません。私的には、この主人公には何ら人間的魅力すら覚えません(涙)。

いや、それは私が年をくったからなのかもしれませんが、基本的に真面目であった私には、たとえこの作品を高校時代に読んだとしても、何ら共感するところはなかったのではないかと思います。

2006年9月13日

人民に奉仕する

人民に奉仕する』読了。

現在の改革開放路線を取る前の中国の、とある軍隊での話です。この本のオビなどを読めばだいたいわかってしまうので書いてしまいますが、あらすじは 上司の家の(事実上)雑用係として配属された農民上がりの兵士が、その上司が北京へ行って留守の間に夫人と不倫の関係になってしまうというストーリーで す。

ただ、そういう関係になってしまうまでの主人公の心の動きが描ききれていませんし、誘ってくる夫人の心理描写もさっぱりです。(上司とは年が離れていて、この上司が既に男性機能を喪失しているため、欲求不満であったということが、後になって明かされますが......)

それに、性愛描写も淡々としていて、過激な描写にあふれている日本人には、「この程度で発禁?」という気がしてしまいます。

そして終末。結局この関係は、夫人の妊娠と軍の解散によって終わりを告げることになるのですが、主人公が休暇という名目で自宅へ戻ってから虚脱状態になってしまっているところの描写も、なんか中途半端。

あまりにも休暇が長すぎると周囲の人に言われ(それと様子がおかしいから)、軍に戻ってみると軍の解散という急転回になっており、主人公は夫人の口利きによって既に軍を離れても暮らしていけるよう段取りされていたというあんばいです。

二人の別れのシーンも、名残を惜しんでもったいつけているようでありながら、描写が甘い感じがします。十数年たち、主人公が夫人を訪ねていき、逢わ ずに守衛に言づてだけして立ち去り、その数日後夫人も家を出たまま行方不明になってしまうという結末です。これは暗に二人で駆け落ちでもしたかのような余 韻を残していますが、それはよいとして妻を寝取られた上司、また主人公の奥さんなどがちょこっとは登場しているのですが、全くきちんと描かれていない、極 論すれば、ほとんど二人芝居のような作品です。

2006年9月 5日

漢字伝来

漢字伝来』読了。

漢字に関する本はたくさんありますが、本書は日本語として、日本語を書き表わす道具として漢字が定着していく過程を丹念に解説したもので、専門的な書籍を除けば、他に類を見ないものではないでしょうか?

ただ、最初にも書きましたように、漢字に関する雑学的で面白おかしい本がたくさん出版されている中にあっては、本書は新書とはいえ、やや堅い本です。

また比重が日本古代史に置かれているため、古代の日朝中の関係史などに興味のある人には面白いでしょうが、そうでない人には歯ごたえがあったと思われます。

それ以上に、音韻学的な記述の部分が、どうしても紙面では伝えにくいものですから、漢字の蘊蓄などを手軽に知りたい読者にはあまりにも本格的すぎるのではないでしょうか?

個人的には、漢字の日本への伝来となると、当然中継地である朝鮮の事情ってものが知りたくなります。本書では中国周辺国での漢字や文字の事情っても のに章を割いている部分がありますが、朝鮮における漢字の伝来、定着、朝鮮語化について、もう少し紙幅を費やしてくれると面白かったと思います。