多民族国家 中国
岩波新書『多民族国家 中国』読了。
中国は歴史的に多民族国家であった、周辺の文化を蔑視することはあっても、そこに住む人を蔑視したりはしない、という主張は他の研究者、他の著書でも書かれていることはありますが、このようにストレートに書かれると、しっかりと頭に入ってきます。
後半は現代のホットな話題、チベットと東トルキスタンの問題ですが、著者は中国人であるにもかかわらず、清朝から中華民国、人民共和国時代まで、比較的公平なスタンスで中国当局の周辺地域支配、少数民族政策を綴っています。
チベットや東トルキスタンは、近代の帝国主義の影響を受け国際問題でもあり、また中国自身の経済発展によって、必ずしもそこに住む人の大多数が独立を望んでいるわけではない、という記述も確かにその通りだと思います。
中国の歴史は、いわゆる近代の領土国家という考え方とは無縁だったので、国境線という考え方も、まだまだ百年程度の歴史しか持っていません。このよ うな全く異なる基準、物差しでチベットや東トルキスタンに向き合わなければならなくなった近代以降の中国の為政者は大変だったと思います。本書は、新書と いうスタイルのため、このあたりの記述にもう少し深みがあってもよかったのにという憾みが残ります。また、これはあたし個人の問題なのでしょうが、著者が 中国人なので読みながらいつも頭の片隅で、欧米の研究者ならどういう記述をするだろう、日本の学者はどう考えるのか、といった疑問が生まれます。
いずれにせよ、竹島や尖閣諸島など、ここへ来て日本も「領土」という問題を身近に考えざるを得なくなりましたが、周囲を海に囲まれ、それが事実上の 国境線を形成していた日本人には、本書は領土問題を考えるきっかけを与えてくれる一冊です。しかし、本書のタイトルは「多民族国家」です。タイトルから、 中国の少数民族のガイドブックを予想された方は肩透かしを食うでしょうね。
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