2005年2月25日

『史記』の人間学

講談社現代新書の『『史記』の人間学』読了。

『史記』の注釈書などの研究書は多いが、人間学に関するものは少ないという著者の考えによって執筆された一冊。『史記』の中から、皇帝・将軍など何 人かを選び、その人物像に迫るというものです。ただ、既に中国史を専門にやっている私などにすれば、どの程度人物像に迫れているのか、今ひとつわかりませ んが、『史記』を知らない人、読んだことがない人、あるいは中国古代史に詳しくない人には手頃な入門書です。

取り上げられているのは皇帝や将軍に偏らず、『史記』全体の割合に比較的忠実に選び出されていると思います。個人的には、『史記』の著者・司馬遷の 筆が冴えるという面からは、第5章から第六章の部分をもう少し広げてもよかったのではと思います。また、ページ数の関係もあるのでしょうが、巻末に人名索 引などがあれば、より有効だったと思います。

各人物を取り上げた後の司馬遷の思いを著者が推論するくだりでは、ややビジネス書的な臭いもしますが、そういう方は、ぜひ『史記』そのものを読んでもらいたいと思います。原文では難しくても、翻訳が何種類も出ています。


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2005年2月 4日

タブーの漢字学

講談社現代新書『タブーの漢字学』読了。

タイトルから、「一般に●●という字が使われてますが、本来の意味からすると間違いで...」的な本かと思ったのですが、性表現や死に関する漢字の使い方(?)などをまとめたもので、「あとがき」によれば、著者の阿辻先生が学生時代から温めてきたテーマだったそうです。

個人的には、最後の実名を避ける<タブー>のところが一番面白かったです。中国学を専門にしている人には当たり前の事柄ですが、気軽に読めてこれだけまとまった分量のある文章は、少なくともあたしには初めてだったので、とてもためにもなりました。

逆に巻頭の性に関する部分は、阿辻先生が妙に気にされていて、言い訳がましい文面が多かったのが気になりました。ちょっと気にしすぎじゃない? と いうのが、最初読んだ時のあたしの率直な感想でしたが、逆に出版人の一人として、このくらい神経質にならないといけない問題なのかもしれない、と読み進む うちにちょっと考えが変わりました。

漢字については、阿辻先生はこれまでにも一般向けの著作を数多く書かれていますので、そのような本も含めお薦めです。

2005年2月 1日

中国文明の歴史

講談社現代新書『中国文明の歴史』読了。

中国二千年(三千年?)の歴史を一冊でまとめたコンパクトな入門書です。が、著者の岡田氏は中国史専門というよりは、もう少し広く世界史という観点 から中国史を捉えているので、「ああ、なるほど、こういうダイナミズムの中の一場面なのね」と思わされることがしばしばです。そういう意味で、中国学の専 門家が書く中国史に慣れ親しんでいる人は、ちょっと違和感を感じるかもしれません。

また、細かな歴史事実については、あるいは誤認かなと思われるところもあります。中国史の時代区分も、結構学界を割るような論争もありますが、私個人としては、岡田氏の分け方は違和感なく素直に受け入れられます。

中国史を専門に学んでいない方は、この本ともう一冊、中国史専門家の書いた概説書・入門書をあわせ読むとよいかと思います。